胚移植時のチューブ内への胚の戻りの原因(子宮モデルを用いて)

胚移植後に胚が移植カテーテル内に留まることは、熟練した術者でも一定頻度お起こり、再度胚移植が必要となります。圧力センサーとビデオレコーダーを備えた透明子宮モデルを用いて、胚移植時にカテーテル内に胚が滞留するメカニズムを調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

胚移植時のチューブ内への胚の戻りは1-7%あるとされていて、チューブ先端に粘液栓・血液栓が付着していることが多いとされていますが、なぜ一定頻度で胚の戻りがあるかわかっていません。今回の研究で子宮内の圧変化が原因の一つであることがわかりました。
子宮収縮がないように子宮がリラックスした状態で胚移植を行うこと、外側シースを胚移植実施前にはある程度引き抜くことを意識し、その上でも一定頻度は胚の戻りが起きることが前提に移植チューブに胚移植後戻りがないか、くまなく調べることが重要です。

≪論文紹介≫

Małgorzata Kozikowska, et al.  Sci Rep. 2019 Aug 19;9(1):11969.  doi: 10.1038/s41598-019-48077-5.

胚移植後に胚が移植カテーテル内に留まることは、熟練した術者でも一定頻度起こり、再度胚移植が必要となります。本研究では、圧力センサーとビデオレコーダーを備えた透明子宮モデルを用いて、胚移植時にカテーテル内に胚が滞留するメカニズムを解明することを目的とし、胚移植手技を10回ずつ実施しました。
子宮モデルの圧力を35mmHgに設定し、近位部と遠位部の圧力勾配がない場合、注入後0.02秒で移送される液体は主に内側カテーテルの先端付近に蓄積しました。その後、1秒後には、移送された液体はほとんどがカテーテル先端付近に留まりましたが、一部の液体と気泡は、外側のシースには到達しないものの、内側のカテーテルに沿って外側のシースに向けて移動しました
子宮モデルの圧力が遠位部(35mmHg)よりも近位部(70mmHg)の方が高く、圧力勾配力がカテーテル先端から離れる方向にある場合、移行した液体はカテーテル先端から大きく離れ、注入後 0.02 秒でその一部が内側カテーテルの先端付近に留まっただでした。その後、1秒後には、移送された液体のほとんどがカテーテルから遠ざかり、ごく一部が内側カテーテルに沿って外側のシースに向かって移動したが、到達しませんでした。
子宮モデルの近位部(35mmHg)よりも遠位部(75mmHg)の方が圧力は高く、圧力勾配力がカテーテルに向かうときに移送液を注入すると、カテーテルに沿って逆流しながらカテーテル先端に集まり、外側のシースに到達しました。1秒後に、内側カテーテルとシースの間に到達しました
胚移植中の子宮腔内の圧変化が、胚を含む移植液の分布に影響を与えることがわかりました。特定の条件下では、移植液がカテーテル内で逆流し、胚のカテーテル内滞留につながる可能性があります。

≪私見≫

胚移植時の胚の戻りは一定数起こり得ます。戻りが起こった場合、適切に次の胚移植を行うことが重要だと考えています。
子宮内圧を35mmHgにした理由は、過去に月経周期別に子宮腔内圧を調べた報告があるからのようです(Bulletti C, et al. Human reproduction 2000)。

文責:川井清考(院長)

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