適切な状況下でERAを実施しよう(症例報告)
ERA検査は248遺伝子(12遺伝子はcontrol gene)の遺伝子発現によって過去のビッグデータより裏付けられた、凍結融解胚盤胞移植が黄体補充から何時間後に着床しやすいかを見る検査であり、着床できる時間の幅を調べる検査ではありません。
また、子宮内膜を構成する複数の細胞の遺伝子発現をざっくりと調べる検査ですので、検査結果をどのように解釈し治療方針に組み込むかは非常に難しくなってきます。
ERA検査は基本1回のみ実施する検査ですので、その検査時の状況が不適切な状況であれば、ヘタをすると間違った胚移植時間に胚移植をしつづける危険性も否定できません。現在、post receptiveがでた時や検体不良時やパニック値が出た場合に再検査を勧められています。
ERA検査が3回異なった結果となりましたが、その後、ERA検査結果のもと2人も妊娠・出産に至った症例報告をご紹介させていただきます。
≪ポイント≫
ERAを行う前には重症の慢性子宮内膜炎がないかどうか確認して実施することが好ましい。
≪論文紹介≫
Kuniaki Ota, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2022
https://bmcpregnancychildbirth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12884-022-05241-6
自然妊娠・分娩歴がある36歳の女性がタイミング・人工授精で複数回妊娠に至らなかったため、体外受精にステップアップしました。3回の凍結融解胚移植で妊娠に至らずERAを実施しました。ERAを125時間で行うとpost receptiveであり、検査会社は再検査を推奨しました。初回のERA検査時、同時におこなった組織検査では重症の慢性子宮内膜炎を認めており、抗生剤加療を行いました。2回目のERAを101時間で行ったところ、結果はpre receptiveであり、1回目と2回目の結果を踏まえて113時間での胚移植を推奨されました。この際には慢性子宮内膜炎は改善していました。初回と2回目の結果の乖離、慢性子宮内膜炎が初回あったことを踏まえて、3 回目の ERA を113 時間後に実施しました。結果はpre receptiveであり137時間が胚移植推奨時間を推定されました。患者様と相談し、3回目の結果を踏まえて137時間後に胚移植を実施し妊娠・出産に至りました。その後、同じ時間の胚移植で第3子を授かっています。
≪私見≫
3回ERA検査が異なったという症例報告はChoらにより報告されていますが、44歳の閉経後女性に検査されており、検査時間も黄体補充後106時間、194時間、170時間と検査会社推奨時間と異なった時間に実施しているため、実臨床では意味がない報告とされてきていました(Cho K, et al, J Assist Reprod Genet. 2018)。今回、私たちの報告は一人出産歴がある女性でERA結果が3回異なり、最終的にはERA結果に従い2人も出産に至ったところに新規性があると考えています。
私たちは重度の慢性子宮内膜炎があると着床の窓がずれる、もしくは消失すると考えており、過去にも国内グループから報告されています。(慢性子宮内膜炎とERA®結果は関係する?(論文紹介))
ERAは否定的な論調も数多く出てきていますが、いまいちど適切な状況下でERAが実施するところから再評価する必要性があるのではないかなと考えています。私たちは、現在でもERA検査を実施する際、自身で組織検体を遺伝子発現と別に病理評価し、サンプルに大きな異常がないか確認したうえでERA結果を判断するようにしています。
文責:川井清考(院長)
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