ERA調整下個別化胚移植は成績改善を認めない(Fertil Steril. 2022)
ERAは2022年現在、国内では先進医療として認められています。検査を用いた胚移植を実施する場合、2ヶ月近く胚移植が遅れること、費用が15万前後かかることから、適切な症例に実施することが必要と考えています。世界各国で行われている検査ですが、現在までのメタアナリシスの評価はどうなのでしょうか。最近、F &S Reviews 2022にもメタアナリシスは公表されていますが、選ぶ論文によって評価が変わることがありますので複数のメタアナリシスがでてくるのは複数の観点から評価できるのでいいことだと思っています。
≪ポイント≫
Sara E Arianの行ったメタアナリシスの結果、ERA調整下個別化胚移植は妊娠率向上につながりませんでした。Huy Phuong Tranのメタアナリシス同様の結果となりました。一部の患者が恩恵を得る可能性があるものの、大多数の女性においては成績向上に関係しない介入であることがわかりました。
≪論文紹介≫
Sara E Arian, et al. Fertil Steril. 2022. Nov 19;S0015-0282(22)02039-8. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.11.012.
PubMed、Web of Science、Embaseを2022年2月15日まで検索しました。
凍結融解胚移植周期を受けた患者の妊娠率を評価した比較研究のみを対象とし、ERAを事前に実施した場合としなかった場合を比較しました。主要評価項目は生児獲得率および/または妊娠継続率、副次評価項目は着床率、生化学妊娠率、臨床的妊娠率、流産率としました。
サブグループ解析は、胚移植不成功回数に応じたERA調整下個別化胚移植の妊娠率を調査しました(2回以下の胚移植不成功回数 vs. >2回の胚移植不成功回数)。
結果:
8つの研究(2,784人、ERA実施831人と非ERA実施1,953人)を対象群としました。米国2報告、スペイン1報告、日本1報告、カナダ1報告、中国1報告、ラトビア1報告、多国籍1報告でした。ERA実施群における出産率または妊娠継続率は、非ERA実施群と比較して差はなく(OR 1.38, 95% CI 0.79-2.41, P 0.25, I2 83.0% )、胚移植不成功回数に基づくサブグループ分析においても差は認められませんでした。着床率、生化学妊娠率、臨床的妊娠率、流産率もERA実施群と非ERA実施群で同等でした。
- 生児獲得率および/または妊娠継続率
- 全体
5試験:OR 1.38, 95% CI 0.79-2.41, P 0.25, I2 83.0% - 2回以下の胚移植不成功回数
3研究:OR 1.09, 95% CI 0.72-1.66, P 0.68, I2 0.0% - 2回の胚移植不成功回数
2研究:OR 1.81, 95% CI 0.36-8.98, p=0.47, I2 96.0%)
- 全体
- 臨床妊娠率
7試験:OR 1.14、95% CI 0.70-1.85、P 0.60、I2 80.0% - 生化学妊娠
3試験:OR 0.86, 95% CI 0.45-1.63, P 0.65, I2 0.0% - 着床率
2試験:OR 1.31, 95% CI 0.92-1.87, P 0.13, I2 0.0% - 流産率
5試験:OR 1.03, 95% CI 0.46-2.32, P 0.94, I2 71.0%
≪私見≫
着床不全の原因は受精卵の質と子宮内膜胚受容能のずれだけではなく、他の免疫因子・非免疫因子など様々あります。子宮マイクロバイオーム、炎症性インターロイキン、TNF-aの過剰産生、ナチュラルキラー細胞の機能異常などです。
当院でも、さまざまな着床不全原因精査を行える状況を整えていますが、ほとんどが自費検査になってしまいますし、一つ一つのエビデンスレベルが高いわけではありませんので、総合的に判断していくことが大事だと思います。
文責:川井清考(院長)
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