ルティナス®膣錠、ウトロゲスタン®膣用カプセル、ルテウム®膣用坐剤、ワンクリノン®腟用ゲルで凍結融解胚移植成績は変わる?(論文紹介)

国内で使用されているプロゲステロン腟製剤は大きくわけて4種類ありますが、それぞれの生殖医療施設で、使用感などにより、メインとして使われている薬剤は異なることが多いです。ただし、薬剤供給が不安定な中、薬剤変更が余儀なくされている現状があり、患者様の不安の声を聴くことも少なくありません。ご紹介する報告は国内で行われた4種類のプロゲステロン腟製剤での生殖医療成績を比較したRCTです。

≪ポイント≫

  • 35-37歳日本人女性でのルティナス®膣錠、ウトロゲスタン®膣用カプセル、ルテウム®膣用坐剤、ワンクリノン®腟用ゲルを用いた凍結融解胚移植成績は変わりません。
  • 胚移植時の血清プロゲステロン値はプロゲステロン腟製剤ごとに異なりますが、凍結融解胚移植成績は変わりません。

≪論文紹介≫

  1. 4種類のプロゲステロン腟製剤での生殖医療成績を比較した主解析
    Reiko Shiba, et al. Reprod Med Biol. 2019 Sep 16;19(1):42-49.  doi: 10.1002/rmb2.12300.

    凍結融解胚移植周期における黄体補充としての4種類のプロゲステロン腟製剤(ルティナス 300mg/day、ウトロゲスタン 600mg/day、ルテウム 800mg/day、ワンクリノン 90mg/day)の有効性を検討したRCTです。
    2016年12月から2017年12月までに行われた259凍結融解胚移植周期における臨床妊娠率、胎児心拍陽性率、流産率をMann-Whitney検定、Kruskal-Wallis検定、Fisher exact検定により解析しています。
    結果:
    ルティナス群63周期、ウトロゲスタン群60周期、ルテウム群56周期、ワンクリノン群56周期の235周期の凍結融解胚移植が解析されました。臨床妊娠率(ルティナス、ウトロゲスタン、ルテウム、ワンクリノン: 34.9%、33.3%、37.5%、35.7%; P = .976)、胎児心拍陽性率(26.9%、31.6%、30.3%、25.0%; P = .857)、流産率(31.8%, 10.0%, 19.0%, 30.0%; P = .306) は腟材の種類により差がみられませんでした。多変量ロジスティック回帰分析でも臨床妊娠率、胎児心拍陽性率、流産率で差を認めませんでした。

  2. 胚移植日の血清プロゲステロン値で生殖医療成績を比較した二次解析
    Reiko Shiba, et al. Int J Fertil Steril. 2021 Jan;15(1):34-39.  doi: 10.22074/ijfs.2021.6235.

    上記試験の二次解析を行い、胚移植時の血清プロゲステロン値が生殖医療結果に影響を与えているかどうか検討しています。235周期を血清プロゲステロン値に基づいて4群に分けた(四分位[Q]1群 <7.8ng/mL、Q2群 7.8~10.8ng/mL、Q3群 10.8-13.7 ng/mL、Q4群 >13.7ng/mL)。各群について、臨床妊娠率、胎児心拍陽性率、流産率、生児獲得率を解析しました。また、女性年齢、BMI、移植胚を共変量としてロジスティック回帰分析を行っています。
    結果:
    血清プロゲステロン値(平均±標準偏差)は、ウトロゲスタン(9.3±3.3ng/mL)およびクリノン(8.7±3.2ng/mL)がルティナス(13.3±4.9ng/mL)およびルテウム(13.6±4.2ng/mL)より低値を示しました(P<0.001)。生殖医療結果は臨床妊娠率(Q1群、Q1群、Q1群、Q1群: 28.8%、37.3%、32.2%、43.1%; P = .394)、胎児心拍陽性率(23.7%、32.2%、27.1%、31.0%; P = .731)、流産率(29.4%, 13.6%, 21.1%, 36.0%; P = .340) 、生児獲得率(20.3%、32.2%、25.4%、27.6%; P = .530)と4群間で差がありませんでした。
    今回の症例で一番低い血清プロゲステロン値で出生に至った症例は4.06ng/mLであり、4ng/mLを下回った周期は3/235でした。

≪私見≫

当院でもルティナス®膣錠、ウトロゲスタン®膣用カプセル、ルテウム®膣用坐剤、ワンクリノン®腟用ゲルの4種類を用いていますが、それぞれの薬剤に特徴があるため、少しずつ説明する内容が異なります。このような報告が国内から出されていることが患者様に提供する医療の信頼につながりますね。臨床業務に忙殺されるだけではなく論文として報告をしていく必要性を日々感じています。

文責:川井清考(院長)

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