ゴナドトロピン刺激は卵子および初期胚の発育に影響を与える?(論文紹介)

自然周期採卵でのデータは世界に誇る報告が2017年に国内施設から行われています。8年間のレトロスペクティブ研究ですが、14,185個の自然周期卵子が、1回の胚移植で1,913人の生児獲得しており、女性年齢別に卵子1個あたりの生児獲得率をみてみると、女性35歳以下では26%、42歳以上では1%に減少していることがわかります。(表1)
Sherman J Silber, et al. Fertil Steril. 2017 May;107(5):1232-1237.  doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.03.014.

それであれば、卵巣刺激をして回収卵子数を増やせば解決するのでは?という議論になるのですが、卵巣予備能の問題や、卵巣刺激の卵子への影響などの観点から一様にはいきません。今回は、ゴナドトロピン刺激は卵子および初期胚の発育に影響を与えるかどうかを示した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

回収卵子あたりの成熟卵率、ICSIでのzymote率は自然周期採卵の方がゴナドトロピン刺激より高くなりました。Day2分割期胚での4cell率、断片化率も自然周期採卵のほうが良好な結果となっており、症例によって自然周期採卵を検討することにより卵子の質の改善が見込める可能性が示唆されました。

≪論文紹介≫

Isotta Martha Magaton, et al. Reprod Biomed Online. 2022. DOI:10.1016/j.rbmo.2022.11.008

2015年-2019年に実施された自然周期-体外受精290名616周期(女性年齢中央値:36歳)と通常卵巣刺激-体外受精140名167周期(女性年齢中央値:34歳)を含むレトロスペクティブ研究です。合計2,110個(自然周期:495個、通常卵巣刺激:1,615個)の回収卵子に対して解析を行いました。通常卵巣刺激-体外受精では、hMG 150-300IU/日を連日使用したGnRHアンタゴニスト法を行いました。ゴナドトロピンが卵子および初期胚の発育に及ぼす影響について分析しました。評価項目は、成熟卵子率、zymote率、day2良好分割期胚率としました。
結果:
成熟卵子率(成熟卵子数/回収卵子数)(89% vs. 82%、aOR 1.79、p=0.001)、回収卵子あたりのzymote率(70% vs. 58%、aOR 1.76、p=0.001)と成熟卵子あたりのzymote率(79% vs. 71%、aOR 1.62、p=0.001)は通常卵巣刺激群に比べ自然周期群で高くなりました。day2良好分割期胚率には差がありませんでした。Day2割球4個、断片化が10%未満の良好な胚形態は、自然周期群で高くなりましたが、symmetryには関係ありませんでした。

≪私見≫

体外受精治療の歴史をみると、ゴナドトロピン刺激で複数卵が獲得できるようになり、治療成績が上がったのは間違いありません。
ただし、ゴナドトロピン刺激は卵子紡錘体を損なうこと(Di Nisio et al., 2018)、DNAメチル化のエピジェネティック機構に影響を与えること(Uysal et al., 2018)、ミトコンドリア機能に影響を与えること(Lee et al., 2017)などの報告がないわけではありません。
卵巣予備能が低い患者に対して、通常卵巣刺激でうまくいかない場合などは自然周期に戻すのもありかもしれませんね。

表1:自然周期採卵での卵子1個あたりの生児獲得率

女性年齢 採卵周期数 卵子数 卵子あたりの生児獲得率
35歳未満 2,860 2,991 26%
35歳 953 994 24%
36歳 994 1,035 21%
37歳 1,083 1,147 19%
38歳 781 819 16%
39歳 773 815 11%
40歳 780 815 9%
41歳 830 888 6%
42歳 820 884 4%
43–54歳 3,512 3,797 1%

文責:川井清考(院長)

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