胚移植前にルーチンERA検査は不要(論文紹介)
「保険診療外でもいいので、やれる検査は最初から全部案内してください」と、凍結胚が貴重な胚の患者様などに言われることがあります。その際、子宮内膜胚受容能検査を提示するかどうか考えることがあります。
今回、ルーチンで行うERA検査は妥当ではないことを示した質の高いRCTがでてきましたので、ご紹介いたします。
それであれば、卵巣刺激をして回収卵子数を増やせば解決するのでは?という議論になるのですが、卵巣予備能の問題や、卵巣刺激の卵子への影響などの観点から一様にはいきません。今回は、ゴナドトロピン刺激は卵子および初期胚の発育に影響を与えるかどうかを示した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
正常核型胚の凍結融解胚移植を行うのに、ルーチンで子宮内膜胚受容能検査(ERA)を行っても、通常治療と成績差がないことがわかりました。
反復着床不全などの特殊な症例を除き、ERA検査のルーチン使用は支持されません。
≪論文紹介≫
Nicole Doyle, et al. JAMA. 2022 Dec 6;328(21):2117-2125. doi: 10.1001/jama.2022.20438.
ランダム化された767名(平均年齢35歳)のうち、755名(98%)が試験を完了しました。生児獲得率は、介入群では58.5%(381例中223例)、コントロール群では61.9%(386例中239例)(差, -3.4% [95% CI, -10.3%~3.5%]; RR, 0.95 [95% CI, 0.79~1.13]; P = 0.38)、生化学妊娠率(77.2% vs. 79.5%;差, -2.3% [95% CI, -8.2%~3.5%]; RR, 0.97 [95% CI, 0.83~1.14]; P = .48)、臨床妊娠率(68.8% vs. 72.8%; 差, -4.0% [95% CI, -10.4%~2.4%]; RR, 0.94 [95% CI, 0.80~1.12]; P = .25)であり、介入群とコントロール群には差がありませんでした。
内膜調整方法として、ホルモン補充周期が用いられています。外因性エストラジオール投与し、子宮内膜厚が7mm以上となったところからプロゲステロン50mg/日 連日筋注、もしくはプロゲステロン膣剤400mg/day+プロゲステロン50mg/日 週2回筋注で123±3時間後にERA検査を実施しています。
≪私見≫
このRCTは現在まで行われてきたERA調整下個別化胚移植に大きな意味合いがないことを示す可能性を秘めています。症例が反復着床不全や反復流産などの女性を除いているとしても、ERA検査自身の信頼を覆すくらいインパクトが強い報告です。
様々な可能性が考えられますが、ERA検査自身が、思いの外、着床の窓を的確にとらえていないか、医療機関が適切なERA検査を行えていないか、子宮内膜胚受容能は思いの外、多様性が多く再現性がとれないか、どれかになってくるかでしょう。
反面、ERA検査が普及することにより恩恵を得た患者様が数多くいるのも間違いのない事実です。ERA検査を、どのように解釈し有効活用していくか、検査会社の努力とともに利用する医療者サイドの理解も深めていく必要があるのだと思います。
12 時間の補正必要症例 | ERA調整下 個別化胚移植 |
ERA非調整 標準胚移植 |
両群治療差 | RR(95% CI) | P value |
全患者 | 211 | 208 | |||
生化学妊娠状態 | 161(76.3) | 167(80.3) | -4.0(-11.9 to 3.9) | 0.95 (0.77-1.18) |
. 38 |
生化学妊娠 | 20(12.4) | 11(6.6) | -5.8(-0.7 to 12.1) | 1.89 (0.90-3.94) |
. 11 |
臨床妊娠率 | 138(65.4) | 155(74.5) | -9.1(-17.8 to -0.4) | 0.88 (0.70-1.10) |
. 06 |
流産 | 22(15.9) | 25(16.1) | -0.2(-5.4 to 14.4) | 0.99 (0.56-1.75) |
>. 99 |
生化学妊娠+流産 | 42(26.1) | 36(21.6) | -4.5(-4.7 to 13.7) | 1.21 (0.78-1.89) |
. 40 |
生児獲得 | 115(54.5) | 130(62.5) | -8.0(-17.3 to 1.5) | 0.87 (0.68-1.13) |
. 12 |
24 時間の補正必要症例 | ERA調整下 個別化胚移植 |
ERA非調整 標準胚移植 |
両群治療差 | RR(95% CI) | P value |
全患者 | 123 | 120 | |||
生化学妊娠状態 | 92(74.8) | 99(82.5) | -7.7(-18.0 to 2.6) | 0.91 (0.68-1.20) |
. 19 |
生化学妊娠 | 14(15.2) | 4(4.0) | 11.2(2.9 to 19.5) | 3.77 (1.24-11.44) |
. 02 |
臨床妊娠率 | 76(61.8) | 94(78.3) | -16.5(-27.8 to -5.2) | 0.79 (0.58-1.07) |
. 01 |
流産 | 9(11.8) | 18(19.1) | -7.3(-18.1 to 3.5) | 0.62 (0.28-1.38) |
. 28 |
生化学妊娠+流産 | 23(25.0) | 22(22.2) | -2.8(-9.4 to 15.0) | 1.13 (0.6-2.02) |
. 78 |
生児獲得 | 67(54.5) | 76(63.3) | -8.8(-21.1 to 3.5) | 0.86 (0.63-1.19) |
. 20 |
文責:川井清考(院長)
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