精液パラメータの縦断的評価と生児獲得について-治療戦略への応用(論文紹介)

Q:通常の精液検査所見が生児獲得を予想できるのでしょうか?
A:女性側の治療をするのかどうか、どのような治療をするのかによって変わってきます。

≪今回ご紹介する論文≫

精液パラメータの縦断的評価と生児獲得について-治療戦略への応用
Longitudinal semen parameter assessments and live birth: variability and implications for treatment strategies
DeVilbiss EA et al., Fertil Steril. 2022 Nov;118(5):852-863. PMID: 36192231.

挙児希望で不妊治療専門のクリニックや専門外来受診の際には、男性パートナーの診療として、通常精液検査が実施されます。精液検査では、精液量や、精子の数、運動している精子の割合、正常な形態の精子の割合を算出します。精液検査には、世界保健機構が出している基準値があります。これは自然妊娠した方の精液検査所見の統計をとって、その中でもっとも低い方の値の5%をカットオフとしています。つまり異常の場合は、WHOの統計で自然妊娠した方の中で、悪い方から5%に入っているという意味で、不妊症かどうかを正確に判定できるわけではありません。悪くても妊娠する方がおりますし、良くても妊娠しない方もいるのです。
この研究は、精液検査所見がどのくらいの場合生児獲得する確率が低くなるかを大規模な研究のデータをもとに検討しています。Folic Acid and Zinc Supplementation Trial(FAZST)という男性不妊について葉酸と亜鉛のサプリが有用かどうかを検討した研究のデータなのですが、この本体の研究結果はこれらのサプリは意味がないという結果でした。しかしながら、とても役に立つデータベースが構築され、このような研究成果も出されています。

≪研究の要旨≫

この研究の目的は、不妊治療を希望するカップルにおいて、精液検査所見のばらつきを考慮した上で、精液検査のパラメータが生児獲得と関連するかどうかを検討することです。
研究のデザインとしては、Folic Acid and Zinc Supplementation Trial(FAZST)という前向きの無作為化試験での症例を用いた解析となっています。FAZSTという研究は、不妊治療を希望するカップルを対象に、男性パートナーへ葉酸と亜鉛のサプリメントを投与し、精液の質と出産に及ぼす影響を評価するために実施した多施設共同二重盲検ランダム化プラセボ対照臨床試験です。この研究は、米国の生殖内分泌・不妊治療研究施設4施設で、2013~2017年に実施されました。患者さんは、 この米国の4つの不妊治療研究センターで不妊相談を目的に受診した2,369組のカップルです。精液量、精液のpH、精子生存率、精子正常形態率、精子の前進・総運動率、精子濃度、総精子数、総運動精子数・前進運動精子数をサプリメント投与前および研究への登録後2、4、6ヶ月目に評価しました。
主な評価項目は以下のとおりです。実施された不妊治療(体外受精[IVF]、子宮内人工授精[IUI]、排卵誘発[OI、またはタイミング]、または治療なし)で群分けし、精液所見のパラメータを値により4つに分割し(四分位)と生児獲得との間のリスク差(RD)を推定しました。症例ごとに複数回の精液検査が実施されました。禁欲期間、精液所見の各パラメータの間の相関、およびロストフォローによる選択バイアスの可能性を考慮しました。
結果は以下のようになっていました。 OIのみ、または無治療のカップルでは、39%が生児を獲得していました。最も値が高い群(最高四分位)に対して、最も値が低い群で生児数の減少と関連と関連があったのは、精子正常形態率{100カップルあたりRD、-19[95%信頼区間(CI)、-23~-15]}、精子運動率[RD、-13(95%CI、-17~-9)]、精子濃度[RD、-22(95%CI、-26~-19)]、総運動精子数[RD、-18(95%CI、-22~-14)]でした。IUIでは、26%が生児を獲得していました。同様に、IUIで精液所見のパラメータで最も値が高い群(最高四分位)に対して、最も値が低い群で生児数の減少と関連と関連があったのは、精液量[RD、-6(95%CI、-11から-0.4)]、精子濃度[RD、-6(95%CI、-11から-0.1)]、精子数[RD、-10(95%CI、-15から-4)]および総運動精子数[RD、-7(95%CI、-13から-1)]でした。体外受精では、61%が生児獲得しており、精子正常形態率[最も低い群Q1 RD, -7 (95% CI, -14 から 0.2); 2番目に低い群Q2 RD, -10 (95% CI, -17 から -2.2)])だけが生児獲得と関連していました。
結論として、OIやIUIを不妊治療として受けるカップルにおいて、精液検査のパラメータは重要であること、精子正常形態率が低い場合のみが体外受精後の生児出産に関連していることがわかりました。今回の研究結果から、精液所見パラメータを使用することが、男性不妊治療およびカップルの不妊治療全体に有意義であることがわかりました。また、精液所見のどのパラメータがどのような治療の設定で重要なるかを示してくれました。

≪筆者の意見と考察≫

この研究から、精液所見の悪い方(成績が下から1/4までの所見)は、良い方(成績が上から1/4までの所見)に比べて、生児獲得率が低下しているということがわかりました。当たり前の結果かもしれませんがとても重要な結果です。自然を目指す方や、自然に近いタイミング、人工授精で子作りをする方にとっては精子の数や、運動性、精子の形態といった精液検査の各パラメータが精子獲得率に影響していました。一方、体外受精では精子の形態のみが関連していたという結果です。この研究では体外受精では精子の数や運動性はあまり重要ではないということになります。
精液検査の結果で成績が悪かったのは、各パラメータが以下のような場合でした;

  • 精子正常形態率2.5から5%以下(WHO基準値4%以上)
  • 精子運動率43%以下(WHO基準値42%以上)
  • 精子前進運動率33%以下(WHO基準値30%以上)
  • 精子濃度24から67x10^6/mL以下(WHO基準値16x10^6/mL以上)
  • 総精子数68から207x10^6以下(WHO基準値39x10^6以上)
  • 総運動精子数30から117x10^6以下(WHO基準値16.4x10^6以上)
  • 精子DNA断片化率がSperm Chromatin Structure Assay (SCSA)で24.5%超の場合

これらからわかるのは、WHOの基準値と若干基準がことなり、特に精子濃度や精子数についてはWHOの値よりももっとずっと高い方が良いことがわかります。WHOの基準値を下回っている場合にも生児獲得率が低下していることもこの論文では示されています。また、精子DNA断片化率については、最近の日本人での検討(Osaka A et al, Asian J Androl 2022; PMID: 34121749)で、男性不妊のカットオフ値が24.0%でしたのでほぼ同じ値であったのは興味深いですね。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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