子宮内膜症手術(アブレーションと嚢胞核出)は卵巣予備能に影響を与える(論文紹介)

子宮内膜症の手術を行うと卵巣予備能が低下しますか?という質問を受けることがあります。どのような手術を行うかにより術後卵巣予備能が変わると以前からわかっています。今回ご紹介する論文は、子宮内膜症に対する嚢胞核出術とアブレーションのどちらが卵巣予備能に影響を与えないかを、胞状卵胞数(AFC)と抗ミューラーホルモン(AMH)値で評価したシステマティックレビューとメタアナリシスです。

≪ポイント≫

子宮内膜症のアブレーション術、嚢胞核出術ともにAMH値は共に低下するが、アブレーション術はAFCを判断指標とすると比較的低下は少なくなりました。
過去の報告から、子宮内膜症に対する嚢胞核出術は、特に5cm以上の大きな子宮内膜症や両側の子宮内膜症、38歳以上の高齢女性では、卵巣予備能が低下しやすいこととされています。一番は、今後の中長期的な不妊治療予定を含めて手術方法を検討していくことかもしれません。

≪論文紹介≫

Ying Zhang,et al. Fertil Steril. 2022. DOI:10.1016/j.fertnstert.2022.08.860

2022年4月3日までにPubMed、EMBASE、MEDLINE、Web of Scienceで子宮内膜症に対する嚢胞摘出術とアブレーションを比較したすべての前向き研究を検索しシステマティックレビューとメタアナリシスを行いました。手術の補助療法として使用された内科的治療は除外しました。2名の著者が独立に適格性とバイアスのリスクを評価しました。統計データはReview Manager softwareを使用してプールしました。評価項目は嚢胞摘出術群とアブレーション群のAMH値とAFC値の変化(グループ間比較とグループ内比較を含む)としました。
結果:
4件の無作為化臨床試験と2件の前向きコホート研究がメタアナリシスの対象となり、294名の患者が対象でした。グループ間比較では、術前AFC値は異質性が低く同等でしたが、術後AFC値はアブレーションに比べ嚢胞核出術で有意に低くなりました(平均差[MD], 1.33; 95% CI, 2.15 -0.51; I2= 57%)。AFC値のグループ内比較では、感度分析により、6ヵ月後のフォローアップで嚢胞核出術で減少(MD, 1.93; 95% CI, 2.40 -1.45; I2= 0%) し、アブレーションでは減少しませんでした。AMH値のグループ内比較では、嚢胞核出術(MD, 1.26; 95% CI, 1.64 -0.88; I2= 45%)とアブレーション(MD, 0.70; 95% CI, 1.07 -0.32; I2= 0%)ともに卵巣予備能に対する負の効果を認めました。

≪私見≫

症例数、AMH値の測定系の違い、止血法のバイポーラ凝固法のパワーの違いがlimitationに上げられています。
今回のメタアナリシスでは年齢、大きさ、手術の片側・両側までは解析ができていませんが過去の報告から、子宮内膜症に対する嚢胞核出術は、特に5cm以上の大きな子宮内膜症や両側の子宮内膜症、38歳以上の高齢女性では、卵巣予備能が低下しやすいこととされています。
妊娠率もメタアナリシスの対象外でしたが、アブレーション後の妊娠率は嚢胞核出術と同等かそれ以上とされています。
子宮内膜組織のシスト壁への侵入深さは、平均0.6mm(87%;1.0mm以下、99%;1.5mm以下)とされています。子宮内膜症の大きさに関係なく、子宮内膜症の壁全体の厚さは、侵入が1mm未満の場合は1.5±0.6 mm、1mm以上の場合は2.4±0.3 mm。子宮内膜症嚢胞摘出術では平均厚さ0.3±0.2 mmの正常卵巣組織が摘出されて、そのくらいの厚みであれば、卵胞がないか始原卵胞のみとなっています。しかし、切除部位が卵巣門付近では平均厚さ0.8±0.4 mmの機能性卵巣組織が切除され、そこにはしばしば一次卵胞や二次卵胞が存在しているようです。線維性組織に直接覆われた子宮内膜症侵入がない領域も子宮内膜症の壁の2%〜90%を占めていて、これらには一次卵胞や二次卵胞が含まれているようです。

文責:川井清考(院長)

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