男性の葉酸と亜鉛の補給が精液の質と出生率に与える影響を検証した論文を紹介いたします。男性側のサプリメントについては色々なところで耳にします。男性側の精子異常の原因がわからないことが多いのでサプリメントに期待する部分が多くあるのが実情です。今回は葉酸と亜鉛をとりあげます。葉酸と亜鉛は前向き研究では精子数の増加や奇形精子無力症に効果があるとされています。（表）

	比較群
葉酸（A）	①5000ug葉酸＋66mg 亜鉛 ②プラセボ	精子数の増加
亜鉛（B）	①400mg亜鉛 ②400mg亜鉛＋20mg ビタミンE ③400mg亜鉛＋20mg ビタミンE +10mg アスコルビン酸 ④プラセボ	奇形精子無力症の改善

(A) Wong WYら、Fertil Steril 2002
(B) Omu AEら、Med Princ Pract 2008

今回とりあげる論文は規模が大きい検討で葉酸、亜鉛の根拠のない使用に意味がなかったと報告した論文となります。

Effect of Folic Acid and Zinc Supplementation in Men on Semen Quality and Live Birth Among Couples Undergoing Infertility TreatmentA Randomized Clinical Trial
Enrique F. Schisterman,
JAMA. 2020 ：doi:10.1001/jama.2019.18714

男性の葉酸と亜鉛の補給が精液の質と出生率に与える影響を検証した論文を紹介いたします。2370組のカップル（n = 2370、18歳以上の男性と18～45歳の女性）を対象とし無作為化臨床試験では、①プラセボ群と②葉酸と亜鉛のサプリメントの使用群（葉酸5mg＋亜鉛30mg）にわけ検証しました。比較対象は6ヵ月後の精液のパラメータ（精子濃度、運動性、形態、体積、DNA断片化、総運動性精子数）、無作為化後9ヵ月以内に発生した妊娠による出産割合です。
結果ですが、ほとんどの精液パラメータ（精子濃度、運動性、形態、体積、総運動性精子数）に差は認められませんでした。むしろ葉酸と亜鉛の補給により、DNA断片化率は増加をみとめてしまいました。（葉酸と亜鉛群：29.7％、プラセボ群：27.2％）。出産割合は治療群間で差は認められませんでした。（葉酸と亜鉛群：34％、プラセボ群：35％）。
葉酸と亜鉛群は消化器症状の副作用（腹部不快感や痛み、吐き気、嘔吐）がプラセボ群に比べ多くみられました。これらの結果からむやみやたらと葉酸・亜鉛をサプリメント補充することは根拠のうえで時期早尚であるとしています。

≪私見≫

私もよく外来で男性側のサプリメントは何をのんだらいいですか？と聞かれます。ビタミンD、ビタミンE、Lカルニチンなど色々ありますが、「まず男性不妊外来で原因をみてもらったら？」とお話をしています。今回の論文では無作為に葉酸・亜鉛を飲んでもいいことないよという内容でしたが、亜鉛は現在測定系があることから私たちも亜鉛欠乏がある場合のみ低亜鉛血症治療剤のノベルジン®や亜鉛サプリメントなどをお勧めしております。ネットで色々調べるより専門家の意見を自身の身体の状態にあわせて検討することが、まず最初にできることなのではないでしょうか。

文責：川井（院長）

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。