肥満は着床前診断の正常核型胚の割合は低下しない(論文紹介)

肥満女性は流産率が高く、生児獲得率が低下することがわかっていますが、過去の報告は複数本出ていますが、受精卵の染色体異常率は変わらないとする考えが主流です。2020年以降様々なグループが着床前診断を用いた研究を紹介しています。今回も同様の研究で、肥満が体外受精の正常胚の割合に影響するかどうか調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

過去の報告同様、過体重・肥満女性では着床前診断を行った際に、正常核型胚の割合の低下は認められていません。

≪論文紹介≫

Stephanie Hallisey, et al. J Assist Reprod Genet. 2022 Oct 10.  doi: 10.1007/s10815-022-02624-8. 

2013年9月から2020年9月までにIVF/PGTを受けた45歳以下の女性を対象とした単一生殖医療施設で行われたレトロスペクティブコホート研究です。主要評価項目は正常核型胚率としました。副次評価項目は、血清エストラジオール値、採卵数、卵子成熟率、高品質胚盤胞率、臨床妊娠率、流産率、妊娠継続率/生児獲得率としました。
結果:
1335の体外受精周期を対象とした(正常群: BMI 18.5-24.9、n = 648; 過体重群: BMI 25-29.9、n = 377; 肥満群: BMI 30-、n = 310)。肥満群は正常群に比べ、高齢で、FSH基礎値、E2ピーク値、高品質胚盤胞率、生検できた胚数が低くなりました。正常胚の割合は正常群/過体重群/肥満群で差はなく(正常群; 36.4%±1.3、過体重群; 37.3%±1.8、肥満群;32.3%±1.8、p=0.11)、年齢ごとや年齢ごとの回収卵子数でコントロールしても同様の傾向でした(p=0.82)。臨床妊娠率、流産率、妊娠継続率/生児獲得率に正常群/過体重群/肥満群で差は認めませんでした。

≪私見≫

この論文では、臨床妊娠率、流産率、妊娠継続率/生児獲得率の差も認められなかったとしていますが、あくまで主要評価項目でなかったため、症例数が足りなかったのだろうと報告者たちは記載しています。

受精卵の染色体異常率は変わらないとする報告は最近複数のグループから報告されています。過去のブログでもとりあげていますので参考にしてみてください。
女性体重は受精卵の染色体異常と関係する?

Cozzolino M, et al. Fertil Steril. 2021;115:1495–502.
Goldman KN,et al. Fertil Steril. 2015;103:744–8.
Kim J, et al. Fertil Steril. 2021;116:444–52.
Yael R.Stovezky B.A, et al. Fertil Steril. 2021;116:388-395.

文責:川井清考(院長)

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