胚移植手技の注意点(2022年レビュー)

胚移植は施設間の成績を左右する重要な手技です。良い受精卵を準備できても胚移植手技が不安定だと成績につながりません。私自身が、体外受精を始めてから、安定したなと感じるまで一番時間がかかった手技です。
当院、医師は月単位で成績をモニターして安定した治療成績を担保できる環境を準備するよう努めています。こちらに関するレビューをご紹介させていただきます。胚移植は経験数ではなく、ひとつひとつ理詰めで行う質重視で行っていくべきだと感じています。米国生殖医学会の胚移植に対するガイドライン2017を基にアップデートされています。

Yossi Mizrachi, et al.Fertil Steril. 2022 Sep 30;S0015-0282(22)01380-2. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.08.858. 

※腹部超音波ガイド下 胚移植は生児出生率を向上させます。(グレードA)
※経膣超音波ガイド下胚移植は腹部超音波ガイド下と同様の成績であり、超音波による不快感が腹部超音波より軽減されます(グレードA)
※頸管粘液の胚移植前の除去 は生児出生率が向上する可能性があります(グレードB)
※柔らかいETカテーテルを使用する方が胚移植時の出生率が高くなります(グレード A)
※外筒カテーテルは内子宮口をこえて深くまで挿入しないことを推奨します(グレードC)
※胚の移植する位置は子宮底部より10mm以上離れた位置とすることを推奨します。(グレードB)
※胚移植の注入速度は十分なエビデンスはありません(グレードC)
※胚移植のローディングから移植終了までの時間は、負の影響があるか影響しないかの相反するエビデンスがあります(グレード C)
※カテーテル抜去時に回転して抜くかどうか、負の影響があるか影響しないかの相反するエビデンスがあります(グレード C)
※胚移植後、すぐ抜いても60-120秒おいて抜いても成績には影響を与えません(グレードB)

●胚移植する医師の技術

Karandeらは1999年に1,850周期の胚移植をレビューし、11名の医師間の妊娠率を比較検討したところ、臨床妊娠率は13.2%-37.4%とばらつきがありました。同様の報告をHearns-Stokesらは2000年に10名の医師で行い、臨床的妊娠率は17%-54%とばらつきが生じました。これらは後方視的研究でした。
2006年、Angeliniらが前向き研究として2名の医師での485件の新鮮胚移植成績を検討したところ、臨床妊娠率20.5% vs. 36.1%と差がありました。条件は揃えて実施された初めての研究でした。
2009年、Yaoらは、2種類のカテーテルと3人の医師のどちらが胚移植の臨床成績に影響を与えるか1,446件の胚移植にてRCTを行ったところ、カテーテルでの成績に差がありませんでしたが医師間では成績に差がありました。
2020年のCirilloらは、20年間19,824件の32名胚移植医師間の成績を比較しました。エコーガイド下で外筒カテーテルを使っていたにも関わらず、移植成績に医師間で差がでました。平均より成績が悪い医師は移植回数や経験年数により成績改善することが少なく、しっかり技術指導を行なわれていないとずっと成績が悪い状態がつづくことがわかりました。

●医師の経験年数

胚移植の成績が医師間によって異なるのは間違いありませんが、医師の経験年数によるのでしょうか。胚移植の最後の大事な部分なので、患者様も若い医師に胚移植されたがらず、若い医師は胚移植できる機会が少ないと2020年にMcQueenらは報告しています。しかし、McQueenらの報告でも、2022年にMillerらが11年間のレビューでしました報告でも医師経験数では移植成績に差はありませんでした。つまり、胚移植成績が医師間によってばらつくのは経験年数ではなく、他の要因であり、しっかり指導され成績をフィードバックできる環境にあるかどうかが大切だと考えています。

●超音波ガイド下胚移植について

超音波ガイドで胚移植を実施することは、子宮内膜へのダメージを減らし、子宮腔内に胚を正確に配置する目的で広く行われています。2016年コクランレビューでは腹部超音波ガイド下胚移植と超音波を用いない胚移植を比較した21のRCT(n = 6,218)のメタアナリシスを発表し、生児獲得/妊娠継続率、臨床妊娠率ともに超音波ガイド下胚移植が好ましい結果となりました。
経腟超音波ガイド下か腹部超音波ガイド下かは過去のRCTでは差がなく、尿溜めしなくて良い点・痛みの点では経腟超音波ガイド下が好ましいという結果になっています。クリニックの成績が安定している方で実施されるべきだと考えます。

●子宮頸管粘液の除去

子宮頸管粘液があると、胚排出を阻害したり、胚を粘性で引き戻したりして適切な場所に胚を配置できない可能性がありますし、頸管から子宮内に異常細菌を押し込んでしまう可能性があります。しかし、頸管粘液を除去すると、子宮収縮や子宮頸管出血が刺激となり着床率が低下することも懸念されます。8件のRCTのメタアナリシスでは子宮頸管粘液除去が臨床成績に影響を与えないとされていますが、報告により頸管粘液除去の仕方は異なり、頸管粘液除去の実施の判断は施設ごとに判断されています。

●カテーテルの種類

柔らかいカテーテルが好ましいとされていますが、現在使用されている柔らかいカテーテルの種類別では生殖医療成績に差を認めていません。

●外筒カテーテル使用の有無

2007年のAbdelmassihらは外筒カテーテルを設置し胚移植をおこなったほうが内子宮口をすぎるくらいまで軟性カテーテルを誘導してあげた方が、成績が高いと報告していますが、こちらも施設ごと・患者ごとに外筒カテーテルの使用有無は判断されています。

●胚の移植する位置

カテーテルの先端が子宮底に触れると子宮収縮を誘発する可能性があるため、一般にさけるようにしています。過去の報告では(1)RCT:子宮底から10mm,15mm,20mmなら10mmでの胚移植の成績不良、(2)RCT:子宮底から10mm未満は10-15mmと比較し胚移植の成績不良。(3)レトロスペクティブ:10mm未満での胚移植の成績不良としています。他の方法として子宮内腔の長さをはかって移植する方法があります。基本は子宮底部に当てずに子宮内腔の中央付近に胚移植するのが好ましいとされています。

●胚移植の注入速度

胚移植の注入速度の検討は今のところ、有益な報告がありません。ただし、マウス胚を用いた注入速度の検討では、異所性妊娠リスクの上昇、胚のアポトーシスの誘導が急速注入で起こることがわかっています。

●胚移植の処置時間の長さ

胚のローディングから胚移植までの時間が120秒を新鮮胚移植でこえると着床・妊娠率が低下するとされていて、胚がインキュベーターからでている時間が長いからとされていました。しかし、凍結融解胚移植では胚移植の処置時間の長さは生殖医療成績に影響をあたえない(Lee M.S.,et al. 2018)とされていて、最近の前向きコホート研究でも影響がない(Nouri K, et al. 2015)とされています。

●カテーテル抜去時に回転して抜くかどうか

1件のRCT (Yayla Abide C.et al. 2018)で、カテーテル抜去時に回転して抜くと臨床妊娠率が高くなったという報告があるが、この論文でも妊娠継続率には差をみいだせていません。その後の大規模RCTでは臨床妊娠率に差を認めることはできませんでした(Gurbuz A.S., et al. 2021)。こちらも施設ごとに安定する方法をみつけていくのが良いかと思います。

●カテーテル抜去のタイミング

胚移植後すぐにカテーテルを抜くのと少し時間をおいて抜くのとどちらがいいかですが、30秒おいた場合(Martínez F., et al.2001)、60秒おいた場合(Sroga J.M., et al.2010)、どちらもすぐ抜いた場合とでは妊娠率に差を認めませんでした。

こちらもご覧くださいね。
〜関連ブログ〜
凍結融解胚移植の手技による妊娠予後因子は?
体外受精を行うスタッフの育成≪the Maribor consensus≫(論文紹介)
胚移植の推奨事項(ASRM2017)

文責:川井清考(院長)

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