体外受精を行うスタッフの育成≪the Maribor consensus≫(論文紹介)

医療現場でのperformance indicator(PI)はスタッフのパフォーマンスを長期的に管理するために不可欠です。期待されるパフォーマンスと実際のクリニックのパフォーマンスとの間のギャップを管理することにより、組織が継続的に発展しつづけるきっかけになるとしています。今回のthe Maribor consensusでは医師のトレーニングのPIまで設定しています。

≪論文紹介≫

ESHRE Clinic PI Working Group. Hum Reprod Open. 2021. DOI: 10.1093/hropen/hoab022

卵巣刺激、採卵、胚移植は、不妊治療のトレーニングを十分にうけた医師が行うべきです。実は、トレーニング卒業を意味する最低限の回数はイギリスでもアメリカでも定めていません。今回、議論はわかれたようですがESHRE Clinic PI Working Groupは下記の回数を実施すること、これらの過程を2年以内に達成することを推奨しています。

手技 トレーニング修了までの回数
卵巣刺激とトリガー 100周期
採卵 75周期
胚移植 75周期

またトレーニング終了後も知識や技術維持のためにconpetenceの設定が必要であるとしています。ある程度熟練するためには一つの手順について200回行う必要があると推定されています。

≪私見≫

医師のトレーニングは本当に難しいです。患者様に妊娠して欲しいと言う気持ちだけでは患者様に提供できる医療の質は保てません。
亀田総合病院はJCI(Joint commission international)という世界の中で最も厳しい基準を持つ医療施設評価機構の認定施設であり、その中で医師の治療範囲についてはPrivilegeというシステムで管理をされています。亀田IVFクリニック幕張では亀田総合病院と同様の規定で管理されており、患者様に提供できる治療は医師別に設定されていますので、医師による臨床成績のばらつきは少ないと思っていただいて問題ないかと思います。
生殖医療分野においてトレーニングが難しいのは、当日の超音波所見や採血結果、精液所見などを診て、外来その場で判断しなくてはいけない点が多いことです。
一般不妊での治療の流れの延長線上に体外受精治療がありますので、当院では一般不妊をしっかり管理できるようになってから体外受精治療を行う仕組みをとっており、卵巣刺激→採卵→胚移植という順番でトレーニングを行うようにしています。
私自身は亀田総合病院のARTセンターで研鑽を積みましたが、決して症例数が多い地域ではなかったため、一例一例を咀嚼し理解を深めていくというところに重点をおいてきました。現在では体外受精や手術の治療方針は、全症例を当院に所属する医師ですり合わせを行っていますし、医師一人一人がこなした症例数、治療成績も管理できる体制を構築していますのでクリニック内での医師間の治療方針も成績同様にばらつきは少ないと理解いただければ幸いです。
the Maribor consensusも一つの指標として今後評価項目に加えていきたいと思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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