体外受精の臨床的指標≪the Maribor consensus≫(論文紹介)
医療現場でのperformance indicator(PI)は、提供される医療の品質が適切に運営されていることを確認するための有効な手段と考えられています。
医療機関や医師が、これらの指標を定期的にモニターすることにより体外受精成績を向上させ、質の高いサービスを提供させる重要な一歩になります。
現在のところ、体外受精の培養部門のPIはVienna consensusとして報告されていますが、臨床業務でのPIに対する議論は乏しく、何をPIとして選定するのか、基準値はどうするのかなど検討していく必要があり、そちらに関して議論した報告となります。
≪論文紹介≫
ESHRE Clinic PI Working Group. Hum Reprod Open. 2021. DOI: 10.1093/hropen/hoab022
ESHREのメンバーである臨床医を中心にオンライン調査で評価しました。
調査は5週間にわたり実施され,222件の回答が寄せられました。回答者の70%以上が同意した場合、indicator、indicatorの定義、またはgeneral statementsとして受け入れられたこととし項目を選定しました。
不妊症の診断と体外受精の適応、卵巣刺激、卵巣刺激のモニター方法、トリガー、採卵、胚移植と妊娠、その他としてトレーニングの指標として6 つの PI を推奨しています。
①採卵前のキャンセル率(%CCR)
②中等度/重度の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を伴う割合(%mosOHSS)
③ICSI時の成熟(MII)卵子の割合(%MII)
④採卵後の合併症の割合(%CoOPU)
⑤臨床妊娠率(%CPR)
⑥多胎妊娠率(%MPR)
Competence | Benchmark | |
①採卵前のキャンセル率(%CCR) | 6% Poor responder: 40 % Normal responder: 20% High responder: 3% |
3.5% Poor responder: 20% Normal responder: 7% High responder: 1.5% |
②中等度/重度の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を伴う割合(%mosOHSS) | アンタゴニスト法 1.5% Normal responder: 3% High responder: 3% アゴニスト法 2.5% Normal responder: 6% High responder: 11% |
アンタゴニスト法 0.5% Normal responder: 3% High responder: 3% アゴニスト法 1% Normal responder: 2% High responder: 5.5% |
③ICSI時の成熟(MII)卵子の割合(%MII) | 74% | 75-90% |
④採卵後の合併症の割合(%CoOPU) | 0.5% | 0.1% |
⑤臨床妊娠率(%CPR) | 国々により治療規定が異なるため今回のコンセンサスでは定義せず。 | |
⑥多胎妊娠率(%MPR) | 13% | 7.5% |
定義されたPIは、6カ月ごとまたは100サイクルごとのいずれか早い時点で算出されるべきとしていて、臨床妊娠率および多胎妊娠率は頻繁に(3カ月ごとまたは50サイクルごとに)モニターする必要があるとしています。
≪私見≫
この論文を読んでいると、選定された項目だけでなく選定されなかった項目も記載されています。
例えば、卵巣刺激の指標として採卵全体を通したキャンセル率を検討されたようですが、PIからは外されています。
Empty follicle syndrome(空胞化症候群)、卵子の変性・未熟、受精障害(精子要因、活性化不良)、胚発生不良など様々な要因が絡んでいて累積14%程度とされていますが、患者様背景にある要因、医学的な要因の線引きが難しくindicatorとしては適していないと判断されたようです。
採卵前のキャンセル率(%CCR)2016年のサイクルキャンセル率は、European IVF-monitoring Consortium(EIM)のデータで報告された報告によると538,788周期中42,626周期(7.91%)とされています。しかし数が少なくてキャンセルする場合の理由として、国々の体外受精の金額や公的助成などにも影響されているようです。今回は卵巣刺激反応別にcompetency levelとbenchmark levelが設定されています。
OHSS率についてですが、GnRHアゴニスト/GnRHアンタゴニスト刺激別にcompetency levelとbenchmark levelが設定されています。
採卵時の合併症には、出血(重度の腟出血、腹腔内出血、腹膜内出血)、感染症(骨盤内・卵巣膿瘍、骨盤内感染症)、激しい痛み、骨盤内構造物の損傷などがありますが、今回OHSSとわけて、採卵後の合併症の割合(%CoOPU)をPIとして設定したのも必要な判断だと思います。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。