子宮内膜症ガイドライン(ESHRE2022:不妊症)

ヨーロッパ生殖医学会の子宮内膜症ガイドラインがアップグレードされました。
不妊に関する部分をご紹介いたします。
①ウルトラロング法を過去の論文から最新エビデンスに切り替え有効性を疑問視したところ、②体外受精前後の手術のあり方について、最新報告をふまえて記載されたところ、がポイントだと思います。

●子宮内膜症不妊女性にホルモン療法/内科療法は有効ですか?

・子宮内膜症不妊女性に、妊孕性を改善するために卵巣機能抑制(ピルや注射などを使った偽閉経療法)を行うべきではありません。(Hughes et al. 2007)
強い推奨 ⊕⊕○○

・妊娠を希望する女性には、将来の妊娠率を高めることを目的として、内膜症術後卵巣機能抑制はルーチンで行うべきではありません。(Chen et al. 2020)
強い推奨 ⊕⊕○○

・内膜症術後すぐに妊娠することができない女性に、ホルモン療法は将来の妊孕性に悪影響を与えず、痛みに関しては有効性があるため提供しても問題ありません。(Chen, et al. 2020)。
弱い推奨 ⊕⊕○○

子宮内膜症不妊女性において、自然妊娠率向上を目的にペントキシフィリン(日本未発売)、その他の抗炎症薬、排卵誘発目的以外でのレトロゾールの使用を推奨しません。(Alborzi, et al. 2011; Lu, et al. 2012)
強い推奨 ⊕○○○

●子宮内膜症不妊女性に、自然妊娠の可能性を高めるために手術は有効ですか?

・腹腔鏡手術は、継続妊娠率向上のためrASRM stage I/IIのような軽度子宮内膜症女性の治療オプションとして考えても問題ありません。(Jin and Ruiz Beguerie, 2014; Bafort et al, 2020; Hodgson et al, 2020)
弱い推奨 ⊕⊕○○

・比較研究のデータは乏しいですが、自然妊娠を高めるため、子宮内膜症性嚢胞に腹腔鏡手術を考慮しても問題ありません。(Dan and Limin, 2013; Alborzi et al, 2019; Candiani et al, 2020)。
弱い推奨 ⊕○○○

・深在性子宮内膜症に対する腹腔鏡手術が妊孕性を改善するという強いデータは存在しませんが、治療オプションと考えて問題ありません。(Meuleman, et al. 2011; Vercellini, et al. 2012; Iversen, et al. 2017)
弱い推奨 ⊕○○○
手術の実施は、疼痛症状、患者年齢や希望、過去の手術歴、他の不妊因子の有無、卵巣予備能、EFI指数などを参考に決定することを推奨しています。
GPP

●子宮内膜症手術後に体外受精を受けることを勧めますか?

推奨はしていませんが、委員会メンバーは術後に妊娠の可能性について患者にカウンセリングを行うことを推奨しています。EFI指数を参考にすること、精液検査、そのほかの不妊原因を加味して総合的に判断することを推奨までしていませんが、提案しています。

●子宮内膜症不妊女性に体外受精は有効ですか?

・rASRM stage I/IIのような軽度子宮内膜症女性において、妊娠率を高めるために、待機管理(タイミング療法)や薬剤を用いない人工授精ではなく、卵巣刺激を用いた人工授精を行うことを推奨しています。(Nulsen, et al.1993; Tummon, et al. 1997; Omland, et al. 1998)
弱い推奨 ⊕○○○

・卵管疎通性確認できている中等度以上のrASRM stage III/IVの子宮内膜症女性における人工授精の意義は不明ですが、IUIの価値は不明ですが卵巣刺激を用いた人工授精は検討の価値があります。(van der Houwen et al, 2014)      
弱い推奨 ⊕○○○

・卵管疎通性が低下している場合、男性不妊がある場合、EFI指数が低い場合、他の不妊治療でうまくいかなかった場合、子宮内膜症女性に体外受精を推奨しています。(Harb, et al. 2013; Hamdan, et al. 2015; Senapati, et al. 2016; Murta, et al. 2018; Muteshi, et al. 2018; Alshehre, et al. 2021)
弱い推奨 ⊕⊕○○

・子宮内膜症女性における体外受精の特定の卵巣刺激プロトコルはありません。GnRHアンタゴニスト法とGnRHアゴニスト法(ロング法やショート法)は、妊娠率や生児出産率に差がないことが実証されているため、患者希望や医師の判断で提供して問題ありません。(Pabuccu, et al. 2007; Rodriguez-Purata, et al. 2013; Bastu, et al. 2014; Kolanska, et al. 2017; Drakopoulos, et al. 2018)
弱い推奨 ⊕○○○

・子宮内膜症女性は、体外受精の実施の有無により内膜症再発率は変わりません。(Benaglia, et al. 2008; Somigliana, et al. 2019)
弱い推奨 ⊕⊕⊕○

・子宮内膜症女性では,採卵後の卵巣膿瘍のリスクは低いですが、予防抗菌薬を検討しても問題ありません。
GPP

●子宮内膜症女性の体外受精治療の前治療オプション(ホルモン療法)は有効ですか?

・子宮内膜症女性の生児出産率を改善するためにウルトラロング法を行うことは有益性が不確かであるため推奨されていません。(Georgiou, et al. 2019; Cao, et al. 2020; Kaponis, et al. 2020)。
強く推奨 ⊕○○○

・子宮内膜症女性の生児出産率を改善するために、ピルや黄体ホルモン薬を長期投与することは十分な根拠がありません。(de Ziegler, et al. 2010)  
弱い推奨 ⊕○○○

●子宮内膜症女性の体外受精治療の前治療オプション(手術療法)は有効ですか?

・rASRM stage I/IIのような軽度子宮内膜症女性において生児出生率を改善するために体外受精前にルーチンで腹腔鏡手術を行うことは効果がはっきりしていないため推奨されていません。(Opoien, et al.2011; Hamdan, et al. 2015)。
強い推奨 ⊕⊕○○

・子宮内膜症性嚢胞の手術は卵巣予備能に悪影響を及ぼす可能性が高いため、生児出生率を向上目的に体外受精前に手術をルーチンに行うことは推奨されていません。(Coccia, et al. 2014; Hamdan, et al. 2015; Nickkho-Amiry, et al. 2018; Şükür, et al. 2021)
強い推奨 ⊕⊕○○

・子宮内膜症に伴う疼痛の改善目的や採卵時の卵胞穿刺のアクセスを改善目的においては、体外受精前に子宮内膜症性嚢胞の手術を検討してもよいとされています。
GPP

・体外受精前に深部子宮内膜症の外科的切除を行うかどうかは、RCTがないため生殖医療成績に対する効果が不明です。疼痛の改善目的や患者との話し合いによって判断することを推奨しています。(Bianchi, et al. 2009; Soriano, et al. 2016; Bendifallah, et al. 2017; Breteau, et al. 2020)
強い推奨 ⊕○○○

●子宮内膜症不妊女性に非医学的介入は有効ですか?

子宮内膜症女性の妊孕性を向上させる根拠がしめせないため、栄養指導、漢方、電気療法、鍼灸、理学療法、運動療法、心理的介入の支持は推奨できないとしています。

Becker CM, et al. ; ESHRE Endometriosis Guideline Group. ESHRE guideline: endometriosis.
Hum Reprod Open. 2022 Feb 26;2022(2):hoac009. doi: 10.1093/hropen/hoac009.

~関連するブログ~
子宮内膜症の不妊治療の流れ(取扱い規約2021より)
子宮内膜症 EFIスコア

文責:川井清考(院長)

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