症状がなく子宮ファイバーでも問題ない不妊症患者の慢性子宮内膜炎の有病率

慢性子宮内膜炎は、不正性器出血のある症例で多いとされていますが、不妊症や不育症でみつかる場合は無症状であることがほとんどです。では、症状がないのに、偶発的に見つかってくる慢性子宮内膜炎はどの程度あるのでしょうか。報告により幅がありますので、私のインプレッション含めた判断をさせていただくことご容赦いただきたいと思います。

≪ポイント≫

臨床的に無症状で、子宮鏡所見で大きな異常がない不妊女性の慢性子宮内膜炎有病率は3-16%前後と予想されますが、条件をきれいに揃えた報告は現在のところ、ありません。

無症状の慢性子宮内膜炎の有病率は0.2%から46%とされています。ばらつきが結構あるのは検査をしている母集団が異なること、組織検査で診断する場合には免疫染色までするかどうかだと思います。全ての論文に目を通しましたが、通常 子宮鏡所見に異常がないときには組織診はしませんので、なかなか、「症状が何もない場合の不妊症患者の慢性子宮内膜炎の有病率」にぴたっとはまる報告はありませんでした。
(Polisseni F, et al. Gynecol Obstet Invest 2003. Wild RA, et al. J Reprod Med 1986. Feghali J, et al. Gynecol Obstet Fertil 2003. Cicinelli E, et al. J Minim Invasive Gynecol 2005. Johnston-Macananny EB, et al. Fertil Steril 2009. Jenneke C. Kasius, et al. Fertil Steril 2011. Keiji Kuroda, et al. Fertil Steril. 2022.)

このなかでは、下記の2本がキーとなる論文かと思っています。
Jenneke C. Kasiusらの報告は体外受精前にルーチンで行う診断用子宮鏡の際に疑わしい部位を子宮鏡ガイド下生検をおこなった無症状の678名の調査では、生検が適切に行われた606例における慢性子宮内膜炎の有病率は2.8%でした。意外と少ないですよね。なぜ、こんなに少ないのかと思ってみていたところ、気になる記載はやはり診断基準でした。HE染色のみで形質細胞を同定し、疑わしいときだけ免疫染色を実施するという手法をとっているため、有病率が過小評価されたのではないかと思います。それ以外は月経周期3-15日に時期をあわせていますし、なにより診断用子宮鏡の際に疑わしい部位を子宮鏡ガイド下生検しているわけですから、検体採取では日本で行われる慢性子宮内膜炎検査よりしっかりしています。抗生剤の予防投与を子宮鏡前におこなっていますが、子宮鏡当日なので診断に影響はないかと思います。
近年の報告では、杉山産婦人科の黒田先生が報告された子宮内器質疾患で慢性子宮内膜炎の有病率を調査した報告(子宮内病変がある慢性子宮内膜炎には手術(論文紹介))のコントロール群で用いられた「子宮鏡を行って子宮内の器質的異常がない症例を選択して3ヶ月以内に組織した群」が無症状の慢性子宮内膜炎の有病率に相当すると思いますが、この場合の有病率は15.7%でした。この診断検査では最近の標準的診断検査となっているCD138免疫染色を実施しています。

桂駅前Mihara Clinicの北宅先生がまとめた報告では、慢性子宮内膜炎は原因不明不妊症患者の28%、反復着床不全患者の14%-41%、反復流産患者の8%-28%で診断されるとしており、不妊・不育症の患者では一般女性より子宮鏡所見でまったく異常がなくても慢性子宮内膜炎の有病率が高いのかもしれませんね。(Kotaro Kitaya, et al.Fertil Steril. 2018 Aug;110(3):344-350. doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.04.012. Epub 2018 Jun 28.)

文責:川井清考(院長)

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