不妊症患者の子宮内膜ポリープをどうするか(総説紹介)

妊活・人工授精・体外受精による治療の前に子宮内膜ポリープを切除すべきかどうかは、様々な意見があります。不妊女性における子宮内膜ポリープの適切な管理については、まだコンセンサスが得られていないので、患者ごとに状況を判断し治療方針を提示することが一般的です。まとまった比較的新しいレビューがありましたのでご紹介させていただきます。

≪推奨ポイント≫

(1) 原因不明不妊女性は、将来の妊活のために子宮内膜ポリープ切除が有益な可能性があるが、エビデンスレベルは低い。
(2)人工授精を行う不妊女性は、子宮内膜ポリープ切除が有益である可能性がある。1件のRCTに基づく結果である。
(3) 体外受精を行う不妊女性では、妊娠率を高めるために子宮内膜ポリープ切除を支持する強いエビデンスはない。
(4) 不妊症女性において、保存的もしくは切除すべきポリープの大きさは定まっていない。小さな子宮内膜ポリープ(10mm未満)は自然退縮することがあることを踏まえて治療選択を行なっていく。
(5)子宮内膜ポリープ切除は、反復着床不全患者には推奨される。しかし、子宮内膜ポリープ切除自体が妊娠率を高めるかどうかは今後も検討が必要である。
(6) 不妊症女性における子宮内膜ポリープの適切な管理についてはコンセンサスがないため、患者の状況や医療機関の方針に応じて個別に行う必要がある。

≪総説紹介≫

Byung Chul Jee, et al. Clin Exp Reprod Med. 2021 Sep;48(3):198-202. doi: 10.5653/cerm.2020.04119.

●切除すべき子宮内膜ポリープの大きさの基準
不妊症女性で切除すべき子宮内膜ポリープの大きさの基準は確立されていません。
小さな子宮内膜ポリープ(10mm未満)は、自然退縮することがあるとされています。自然退縮する割合はポリープ10mm未満の場合は、最大25%程度とされています(米国婦人科腹腔鏡医協会のガイドライン)

●自然妊娠を試みている不妊女性における子宮内膜ポリープ
妊活前に子宮内膜ポリープが見つかった場合は、切除した方が妊娠率が高いというのは間違いなさそうです。(Varasteh NN, et al. Obstet Gynecol. 1999、Spiewankiewicz B, et al. Clin Exp Obstet Gynecol. 2003、Shokeir TA, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2004)。子宮内膜ポリープのある部位も大事なようです。子宮内膜ポリープ切除後の妊娠率は、子宮-卵管接合部に位置するポリープが最も高く(57.4%)、次いで多発性ポリープ40.3%、後壁ポリープ28.5%、側壁ポリープ18.8%、前壁ポリープ14.8%となっています。(Yanaihara A, et al. Fertil Steril. 2008)

●人工授精を受ける不妊女性における子宮内膜ポリープ
RCT (Perez-Medina T, et al. Hum Reprod. 2005)、後方視的研究(Kalampokas T, et al. Clin Exp Obstet Gynecol. 2012)ともども子宮内膜ポリープ切除が有益だとしています。ただし、大きさ10mm以下の内膜ポリープは手術してもしなくても妊娠率には影響しませんでした。

●体外受精を受ける不妊女性における子宮内膜ポリープ
基本は妊娠率に寄与しないという報告がほとんどです。体外受精前に全例子宮鏡をやると子宮内膜ポリープは大小あれ32%程度あると言われていますので、それを考えると小さいポリープであれば患者にしっかり説明し、先に胚移植を選択しても良いと思います(Hinckley MD, et al. JSLS. 2004)。
新鮮胚移植は子宮内膜ポリープ20mm以下なら妊娠率は低下しないが、流産率が上昇します。(Lass A, et al. J Assist Reprod Genet. 1999)
新鮮胚移植は子宮内膜ポリープ15mm以下なら妊娠率・着床率は低下しません。(Isikoglu M, et al. Reprod Biomed Online. 2006)

●子宮内膜ポリープが妊活に与える悪影響
「自然妊娠や人工授精女性に子宮内膜ポリープ切除術が有用であるならば、なぜ体外受精女性には有用でないのでしょうか?」という質問に関しては体外受精の胚移植は着床能が高いため、小さいポリープの着床を阻害する悪影響に打ち勝つことができるとされています。
子宮内膜ポリープが着床を阻害するメカニズムは明らかではありません。子宮内膜ポリープは物理的に着床を阻害している可能性、子宮内膜の分泌物組成(グリコデリンなど)が変わる可能性、慢性子宮内膜炎を含めて子宮内膜ポリープは局所的な炎症を誘発し着床を阻害する可能性、HOXA10およびHOXA11のmRNAレベルの減少を介して子宮内膜受容能に影響を与える可能性などが考えられています。

●反復着床不全女性における子宮内膜ポリープ
反復着床不全(RIF)女性では、原因をすべて改善していくことが重要です。子宮内病変を特定し、異常があれば修正することが原則です。Demirol と Gurgan らは、421人のRIF患者を、210人が子宮鏡検査を受け、211人が受けなかった2群に分け検討したところ、子宮鏡検査群では26%に外科的介入が必要な異常が見つかりました。この報告では子宮鏡検査を行うだけでも妊娠率向上に寄与している結果となりました。(Al-Jefout M, et al. Fertil Steril 2009)
システマティックレビューによると,RIF患者における子宮鏡検査異常所見の発生率は25%~50%であり,無作為化試験のプールドデータでは子宮鏡検査はその後の体外受精における臨床妊娠率を増加させました(pooled RR, 1.57; 95% CI, 1.29-1.92)(Makrakis E, et al. Curr Opin Obstet Gynecol 2010)。 RIF患者においてポリープ切除は推奨されています。

●他のシステマティックレビュー(Zhang H, J Minim Invasive Gynecol. 2019)
子宮鏡下内膜ポリープ切除と生殖医療結果を比較した8件の報告をレビューしたところ、人工授精を実施する不妊女性の臨床妊娠率の上昇とポリープ切除は関連するが、体外受精を受ける不妊女性の臨床妊娠率、生児出生率、流産率、着床率はポリープ手術と関連しないとしています。子宮内膜ポリープの保存的/手術療法は、移植可能胚数、過去の不妊治療歴、施設ごとの成績と方針をふまえて個別に行うべきと提唱しています。

文責:川井清考(院長)

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