AGA治療薬であるフィナステリド(プロペシア®)やデュタステリド(ザガーロ®)を飲むと不妊症になるのでしょうか? その3(論文紹介)

不妊症の検査中に精子が少ないことがわかった場合、フィナステリド(プロペシア®)を飲んでいる方は、中止すると精子数が回復するようです。

≪今回ご紹介する論文≫

「男性不妊症集団におけるフィナステリドの使用:精液およびホルモンパラメーターへの影響」(Finasteride use in the male infertility population: effects on semen and hormone parameters. Fertil Steril. 2013. PMID: 24012200)

これまで、2回にわたって、若年の健常者では低用量、および通常量のフィナステリドやデュタステリドを内服しても、精子数や精子運動率といった精液所見に問題になるような悪影響はなかったという論文を紹介しました(「その1」「その2」)。
もともと精液所見が良いので、少しぐらい悪化しても基準値内におさまるという結果でもありましたが、不妊症になるかどうかは不明です。今回ご紹介する研究では、後ろ向きの検討となりますが、男性パートナーが不妊外来を受診した際にAGA治療薬として5α-還元酵素阻害薬であるフィナステリドを飲んでいた場合、どう対応したら良いかについての有用な情報を提供してくれています。生殖医療に携っているものとしては、日々遭遇する状況です。

論文の要旨:
この研究の目的は、フィナステリドの内服を中止した後に、精液所見がどの程度改善するかを検討することです。
不妊症の評価のために受診した男性の診療情報を集めているデータベースから、精液所見や性ホルモンの値を抽出し、フィナステリドの中止前後の変化を解析しました。対象は2008年から2012年の男性症例です。
結果は以下のようになっていました。データベースに登録された4400名の男性患者のうち、27名(0.4%)が男性不妊症の評価のための受診当初にフィナステリドを内服していました。内服期間は平均57.4ヶ月でした。また、内服用量は1日平均1.04mgでした。フィナステリド内服中止後、平均の観察期間6.45ヶ月の間に、平均11.6倍の精子数増加を認めていました。高度乏精子症(精子数<5x106/mL)では、フィナステリド中止後57%の症例で精子数が増加し15x106/mLを超えるまでに改善していました。一方で、フィナステリド中止後に精子数が減少した症例はありませんでした。また、ホルモン値や精子運動率、精子形態に有意な変化を認めませんでした。
結論としては、フィナステリドは低用量であっても症例によっては精子数の減少をきたす原因となっている可能性がある、としています。このように男性不妊症とされるような方の場合は、フィナステリド中止によって多くの症例で、精子数が劇的に改善しました。ホルモン値や精子運動率、精子形態は有意な変化はありませんでした。精子数が低下している男性においては、フィナステリドは中止すべきであると同時に、挙児希望の男性の場合はフィナステリドの使用に注意が必要です。

≪筆者の意見≫

前の2回では、健常者を対象とした研究を紹介してきましたが、今回の論文は男性不妊症を対象としたものです。フィナステリド中止により劇的に精子数が上昇しています。この研究では乏精子症での改善が主に報告されていますが、精子数が15x106/mLと基準値内の症例でも精子数が3倍以上に増加していました。泌尿器科医師で生殖医療に関わっているものでは、この研究でのフィナステリドや、あるいはもっと強力な5α-還元酵素阻害薬であるデュタステリドを内服しているかどうかを常に確認し、内服していた場合は中止をお願いすることが一般的になっています。今回の研究は海外の検討ですが、我が国からの症例報告もあります(Chiba K et al., Fertil Steril 2011)。この症例は5年前に不妊治療専門のクリニックで乏精子症を指摘されていましたが、不妊治療はしていませんでした。1年前からAGA治療薬としてフィナステリド1日1mgを内服していましたが、再び乏精子症を指摘され、初めて男性不妊症外来を受診しました。その時点ではほとんど精子を認めず、無精子症に近い状態でしたが、フィナステリド中止後16週で精子数10x106/mLを超えるまでに改善しました。つまり、顕微授精が必要な状況から、人工授精が可能なレベルまで改善したということになります。適切な対応であったと思われます。
AGAは男性としては深刻な問題で、フィナステリドやデュタステリドを内服している方は高いお金をはらって治療しています。やめることをお勧めしてもなかなかご理解を得られない場合もありますが、子作りをする場合は、この薬剤のメリット(髪の毛が増える、前立腺癌予防)とデメリット(精子数が減る、持続的な男性機能障害がおきる、薬剤費がかかる、体外受精や顕微授精などより奥様の負担となる治療が必要になるといったリスクがある)をよく考えていただく必要があります。また、男性パートナーの方も早めに泌尿器科の専門医を受診して、検査や必要な治療、アドバイスをうけることが重要です。
3回にわたって5α-還元酵素阻害薬であるフィナステリドとデュタステリドと不妊症について、解説いたしました。若い健常者で精液所見が問題ない男性であれば、これらの薬剤の影響はあまり考えなくてもよいですが、若くても子供を作りたい場合や精液所見が悪い方は内服を避けた方がよいと考えられます。一方で、妊娠や生児獲得までのデータはありません。結局明確な結論はでませんが、男性不妊の場合には、原因は複数あることが多いので、できることはなんでもしていただくことが元気な赤ちゃんを授かることにつながります。ご参考になれば幸いです。

参考文献
Samplaski MK, Lo K, Grober E, Jarvi K. Finasteride use in the male infertility population: effects on semen and hormone parameters. Fertil Steril. 2013 Dec;100(6):1542-6. doi: 10.1016/j.fertnstert.2013.07.2000. PMID: 24012200.

Chiba K, Yamaguchi K, Li F, Ando M, Fujisawa M. Finasteride-associated male infertility. Fertil Steril. 2011 Apr;95(5):1786.e9-11. doi: 10.1016/j.fertnstert.2010.12.001. PMID: 21193189.

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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