早期乳がん化学療法中の卵巣保護目的GnRHa薬の再発リスクは?(論文紹介)

生殖年齢乳癌患者の化学療法中のGnRHa薬(リュープリン®など)使用は、卵巣機能を保護するための推奨される方法となってきていますが、長期予後の安全性データは少なく、まだまだ議論が交わされている最中です。
現在では化学療法を行う女性への卵巣保護の観点からGnRHa薬が推奨されてきています(Paluch-Shimon S, et al. Ann Oncol. 2020. Burstein HJ, et al. J Clin Oncol.)。現在のエビデンスでは、乳がん女性に対する化学療法を行い閉経リスクが高い女性に対して、2年から5年の卵巣機能抑制の使用が支持 (Francis PA, et al. N Engl J Med. 2018. Kim H-A, et al. J Clin Oncol. 2020.)、5年以上延長することが有益であるという証拠はなく、長期使用による有害事象の可能性も懸念されています (Lambertini M, et al. J Clin Oncol. 2020.)。
生殖年齢乳がん患者の化学療法中にGnRHa薬使用をすることにより、乳がんの長期予後が悪化しては元も子もありません。こちらを追跡した論文をご紹介します。

≪ポイント≫

ホルモン受容体陽性乳がん女性を含む早期乳がんの生殖年齢女性において、卵巣機能を維持する戦略として化学療法中のGnRHa使用は12年間の再発率・生存率の観点で安心できる結果となっています。

≪論文紹介≫

Matteo Lambertini, et al.  J Natl Cancer Inst. 2022. DOI: 10.1093/jnci/djab213

化学療法による閉経予防効果を調査するために早期乳がん患者における研究-Gruppo Italiano Mammella 6(PROMISE-GIM6)試験は、多施設、無作為、非盲検、第III相優越試験で、2003年10月から2008年1月までイタリアの16施設で実施されました。対象患者は、(ネオ)アジュバント化学療法単独群(対照群)またはGnRHa併用群(GnRHa群)に無作為に割り付けられました。主要評価項目は、化学療法による早発性卵巣機能不全の発生率としました。ポストホックエンドポイントは、無病生存率、全生存率、および治療後の妊娠数とし、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)が算出されました。
結果:
無作為に割り付けられた281人のうち、80.4%がホルモン受容体陽性乳癌でした。追跡期間中央値は12.4年(11.3-13.2 年)であり、12 年無病生存率(GnRHa 群 65.7% [95%CI :57.0〜73.1%] vs. 対照群 69.2% :60.3〜76.5%]; HR: 1.16, 95%CI: 0.76〜1.77) および12年全生存率 (GnRHa 群 81.2% [95%CI: 73.6〜86.8%] vs 対照群 81.3% [95%CI: 73.1〜87.2%]; HR: 1.17, 95%CI: 0.67〜2.03) には、差は認めませんでした。ホルモン受容体陽性の患者では、無病生存率のハザード比は1.02(95%CI: 0.63~1.63) 、全生存率は1.12(95%CI : 0.59~2.11 )でした。GnRHa群と対照群では、治療後に妊娠した患者はそれぞれ9人と4人でした(HR: 2.14、95%CI: 0.66~6.92)。
結論:
PROMISE-GIM6試験の最終解析では、ホルモン受容体陽性の患者を含む早期乳がんの閉経前患者において、卵巣機能を維持する戦略として化学療法中のGnRHa使用の安全性について、安心できる結果が得られています。

≪私見≫

乳がん患者は若年発症が多く、当院にもたくさんの患者様が受診されています。不妊と違いSNSでの発信を含め情報量が少なく、患者様がどのように情報を収集していくかは難しい選択となります。
私はGnRHa併用推奨派ですので、意見が偏らないように情報発信をしていけたらなと思っています。

文責:川井清考(院長)

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