MTHFR遺伝子多型の不妊・不育症患者での割合(論文紹介)

葉酸サイクルの主要酵素の一つであるMTHFR は、メチレンテトラヒドロ葉酸からメチルテトラヒドロ葉酸への変換を触媒する酵素で、ヒトMTHFRは656個のアミノ酸からなる分子量103-kDaのホモ二量体です。
MTHFR遺伝子の塩基番号677C→T の一塩基置換は、222番目アミノ酸をアラニン(Ala)からバリン(Val)に変化させる多型です。TT型、CT型はホモシステインからメチオニンへの変換が滞り健康に影響を与えることがわかっています。
血中ホモシステイン濃度の認知症や心血管疾患のカットオフ値は10μM/Lと考えられていて、2.5μM上昇するごとにリスクが10%上昇するとされています。この研究は、不妊症治療をうけている患者のMTHFR 遺伝子多型の割合をレトロスペクティブに評価した報告です。

≪ポイント≫

  • 不育症・体外受精反復不成功患者における男女間のMTHFR遺伝子C677T多型、およびA1298C多型の割合は変わらなかったが、男性の方が血中ホモシステイン濃度に影響を与える可能性が高いことがわかりました。

≪論文紹介≫

Yves Ménézo, et al. J Assist Reprod Genet. 2021. DOI: 10.1007/s10815-021-02200-6
MTHFR遺伝子C677T多型、およびA1298C多型、血中ホモシステイン濃度を、2回以上の流産歴(2〜9回)または2回以上の体外受精不成功(2〜10回)であった2,950名の患者(女性1588人、男性1262人)が対象とし検証しました。
結果:
男女間の差は認められず、677CC/1298AA(野生型)は15%に過ぎませんでした。MTHFR遺伝子C677T多型はホモシステイン蓄積に最大の悪影響を及ぼすことがわかりました。
ホモシステイン血症>15μM/Lの大部分(2/3以上)は、677CTアイソフォームを持つ患者で見られました。(677TT/1298AA:42.6%、677CT/1298AC:26.4%、677CT/1298AA:20.3%)

血中ホモシステイン値を評価した2,614人のうち、>10μM/L患者が1,219人(46.6%)で、男性72.8%、女性23.5%であり、>15μM/L患者が259人(9.9%)で、男性17.2%、女性3.4%でした。MTHFR 遺伝子多型が血中ホモシステインに及ぼす影響は、男女間で異なることがわかりました。

  女性(%) 男性(%)
677CC/1298AA 259(16.3) 202(14.6)
677TT/1298AA 181(11.4) 158(11.4)
677CC/1298CC 148(9.3) 111(8)
677CT/1298AC 308(19.4) 326(23.6)
677CT/1298AA 381(24) 311(22.5)
677CC/1298AC 307(19.3) 265(19.2)

 

≪私見≫

今回の検討は90%以上が白人対象です。MTHFR遺伝子 C677Tバリアント頻度は世界中の多くの人種で比較的高頻度に認められるとされていて、日本>白人>アフリカン系アメリカ人とされていますので、今回のデータは白人の不育症・体外受精反復不成功患者における男女間のMTHFR遺伝子C677T多型、およびA1298C多型を満たすものに過ぎませんが、今後 不妊症分野においても注目されるファクターの一つだと考えています。
男性不妊患者でもMTHFR遺伝子 C677Tバリアント頻度が高いと報告がありますが、一般母集団に対して葉酸・亜鉛サプリメント補充は否定されています(男性に葉酸と亜鉛サプリメントを飲んでもらう?(論文紹介))。
遺伝子型別の治療は今後のオーダーメイド治療の注目すべきポイントですね。

文責:川井清考(院長)

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