45歳以上の体外受精治療は有効ではないのか・・・(論文紹介)

加齢に伴う卵子の質と量の低下は、体外受精の成績に影響を与える大きな要因です。
女性年齢45歳以降に着床前診断で正常核型胚盤胞がでてくる可能性、生児出産できる可能性は極めてゼロに近いとされています。女性年齢についで、妊娠・出産を予測する因子は採卵時にとれる成熟卵子数、移植可能胚数です。予後が非常に悪いカップルには、予後、リスク、費用、自身の卵子以外で子供を授かる代替案について説明することが好ましいとされています。

こちらに対して、比較的わかりやすくまとめたレビューをもとに、年齢が高い女性の体外受精での治療効果が乏しいことをご説明させていただきます。
治療を拒否するわけではなく、夫婦がどこかで治療の限界を理解して終結し、前を向いていかなくてはいけません。生殖医療に関わる私たちに何ができるか、日々向き合う課題でもあります。

≪論文紹介≫

Hakan Cakmak. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.02.027

米国生殖医学会倫理委員会は、不妊治療における生児出産の可能性が1%未満を「futility (無益:日本語訳として正しい選択かどうかわかりません。)」、1%~5%を「very poor prognosis (予後不良)」と定義しています。
「futility (無益)」とは非情な言葉であり、子供が欲しいカップルからすると非常に冷酷で医療者に対して怒りを覚える言葉であることも十分理解しています。

生殖医療医師と子供がほしい高齢女性の間で治療の対する意見相違や対立が生まれることは全世界的に共通であります。
これらの対策としてクリニック側としてできることは、①クリニックの成績やエビデンスに基づき、治療を提供する女性年齢や治療を中断する条件をポリシーとして定めること、②チームとして、患者のステージが「futility (無益)」「very poor prognosis (予後不良)」に該当するか複数の医師で判断し、定期的に目標設定(治療を行わない、治療開始・継続・中断)を行うこと、③子供を授かるうえでの代替案を提示する環境を準備することが選択肢に挙げられます。
卵子の質を向上させ、異数性を減少させる代替療法(ミトコンドリア異種移植/自家移植、テロメラーゼ活性の再活性化、CRISPR/Cas9システム)などは、このさき解決策の一端となる可能性はありますが、現在では有効性が確立されていない、倫理的に許可されないなどの理由から臨床的解決策として提示する方法には至っていませんので、女性年齢による生殖医療成績の低下を治療することは現段階では困難であると考えられます。

高齢女性を対象とし、なぜ45歳以上女性の自己卵子での体外受精が「futility (無益)」とされるかの参考報告は以下のとおりです。
●J.M. Franasiak, et al. Fertil Steril. 2014
胚盤胞の着床前診断から31歳以降に異数性の割合は増加し、43歳で85%に達することが分かっています。女性年齢46歳で正常核型胚がとれたという報告がないわけではありませんが、症例数は4例で回収卵子数が12個/回あり、43個着床前診断を実施し12個正常胚となっています。この報告でも女性年齢47歳以上では、20個着床前診断を実施し正常胚は0個となっています。
●S. Klipstein, et al.Fertil Steril. 2005
40歳以上の女性(n = 2,705、40〜49歳、ほとんどが分割期胚移植)における年齢別の着床率を調べた研究では、体外受精開始あたりの着床率は40歳で14%、44〜45歳で1〜2%に減少し、45歳以上では0%であり、累積生児出生率(平均2.3体外受精周期)は、40歳からの体外受精開始で28%、44-45歳での開始で2%-5%に減少し、45歳以上での開始で0%になりました
●A. Hourvitz, et al.Reprod Biomed Online. 2009
42歳以上の女性(n = 843、42-47歳)での体外受精1周期あたりの出産率は、42歳、43歳、44歳女性でそれぞれ4.2%、3.3%、0.6%であり、44歳以上の女性では出産はありませんでした。
●V. Gunnala, M, et al. J Assist Reprod Genet. 2018
45歳以上の女性(n=1,078、45〜49歳)を対象とした研究では、12%の症例で、FSHが高い、卵胞シストがあるために予定した治療を開始せず、29%の症例で、卵巣発育反応がないために採卵前に治療を中止しています。胚移植あたりの妊娠率は19%でありましたが流産率が82%と高く、採卵あたりの着床率はわずか3%でした。45歳以上で4個以上の回収卵がある女性しか生児出産に至っていませんでした。
●国内の報告
私たち生殖医療に関わる施設は日本産科婦人科学会に体外受精成績を登録しています。令和2年の報告では99.2%(619施設/624施設)からの返答があり、信頼できるレジストリだと考えています。45歳以上の女性が体外受精治療を行なって子供を授かり分娩に至っている人数は、2019年は45歳  157人、 46歳 51人、47歳 19人、48歳 8人、49歳 4人、50歳以上 7人となっています。ただ、こちらの年齢は治療周期あたりですので、凍結融解胚移植に関しては治療を始めるより若い年齢で凍結しておいた受精卵を移植しても移植した年齢の実績としてカウントされてしまいます。
〇〇歳で採卵スタートして移植できなかった、新鮮胚移植を実施した、事前に凍結しておいた胚を融解胚移植した症例を総治療周期として分母としたときの生産率、45歳 1.5%、 46歳 0.8%、47歳 0.6%、48歳 0.4%、49歳 0.5%、50歳以上 1.0%となっていますので、海外の体外受精治療が「futility (無益)」と判断するラインとほぼ同等のことが結果として出ているかと考えています。

文責:川井清考(院長)

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