体外受精を受ける前に患者さまと話し合うべきこと(日々の反省も込めて)
4月から体外受精が保険適用になることは、保険適用外の時よりも体外受精を治療選択される際の敷居が少し低くなるのではないでしょうか。ただし、治療内容としては保険適用開始の前後で大きく変化するわけではなく、患者様にとって、治療に割く時間、費用、身体的負荷がのしかかかってくることに変わりはありません。
先般のブログ:体外受精治療計画についてどのように話し合う?にも記載しましたが、治療内容について現実的に理解し、事前に計画を立てることが大事です。
これはスケジュールの計画ということだけではなく、一回の治療に期待できる成績も含めてです。
なぜ、貴方は体外受精を選択しなくては妊娠・分娩できないと判断され治療に挑むのか?妊娠・出産率が上がるとわかっていても合併症の観点から採卵する数を調整したり、初回から2個同時に戻したりすることが許容されないのか?(日本産科婦人科学会雑誌第73巻第8号)などです。
私たちも、下記内容を達成できるように資料を作り・説明を行えるように努めていきたいと思います。
①治療に期待する妊娠成功率
- 成功と失敗の可能性を患者さまが知っておく必要があります。
- 日本産科婦人科学会のデータブック
⇒採卵あたりの妊娠率・生産率、移植あたりの妊娠率・生産率がわかりますが、何回目の採卵か、戻した凍結胚が何歳のときに凍結した胚なのかはわかりにくくなっています。 - 米国・イギリスのデータを用いた予測ツール
⇒国内とは体外受精の適応や治療方針がやや異なります。しっかりした調節卵巣刺激を行った際の予測になります。 - 私たちのクリニックの成績
⇒当院の成績は開示していますが、症例数が少ない年齢層やパターンなどがあり、成績に年ごとのバラつきが大きいのが現状です。
上記などを参考に、初回採卵の初回胚移植でうまく妊娠できる人の方が少ないと、期待をしつつも理解をしながら進めるのが好ましいとされています。
うまくいかない場合に、次回、同じことを繰り返すのではなく、次の治療に活かせるような改善点の抽出ができることを患者にニュートラルな表現で伝えていくことが重要だとされています。その中で、患者様がSNSなどで得る情報に影響を受けるのではなく、EBM(科学的根拠に基づいた医療)を大事にしながらも患者様の状況をふまえて個別化医療を提案していくことを意識して治療を行っています。
②精神的サポートの充実
精神的なサポートを充実することも大事です。
カウンセリングを受けられる環境も大事ですが、患者様のことを把握しているスタッフが日常からケアできる環境、また妊娠反応陰性時や治療方針の相談時などの節目節目にはゆっくり話せる環境を準備することに努めます
③患者様と話し合うことの重要性
患者様には、現在の不妊原因、カップルの年齢、卵巣予備能、ライフスタイルなどを踏まえて、選択でき得る治療に関する生殖医療成績、治療期間などを事前に話し合うことが必要とされています。代替治療の提案も必要だと考えますし、患者様が治療に割ける時間・生活パターンや、提供されたい治療内容などから他施設への紹介などの相談に乗ることも行っています。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。
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