体外受精治療計画についてどのように話し合う?(論文紹介)

体外受精治療を行う患者は子供を授かるために複数回の体外受精の採卵・移植を必要とすることが多いです。約60%の不妊患者は治療開始前に、治療スケジュールを事前相談することを希望するのが一般的ですが、通常は1回の採卵周期の話だけになってしまうことが多いです。最初の段階で、一回で結果がでる可能性、うまくいかない場合の治療方針などをどのように説明しているかは明らかではありません。その方法をディスカッションした報告をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

C Harrison, et al. Hum Reprod. 2022. DOI: 10.1093/humrep/deab278

不妊治療クリニックに勤務する医療従事者、患者支援団体メンバー、患者を対象とした質的フォーカスグループを実施しました。患者は、参加前の8週間以内に体外受精を開始するための診察を受けている18歳-42歳の女性としました。
フォーカスグループのトピックは、不妊治療の相談に関する一般的な質問から、体外受精治療不成功の可能性や複数周期の必要性を説明されているかどうか、またクリニックでどのように議論されているかに進みました。その後、体外受精を複数周期の計画を話すべきか、周期ごとに話すべきかについて、それぞれの希望を確認しました。フォーカスグループは録音され、録音を書き起こし、フレームワーク分析を用いて、参加者グループ間で共有されるテーマ、固有のテーマ、不一致のテーマを特定しました。
結果:
12人の医療従事者、2人の患者支援団体メンバー、10人の患者が、6回のオンラインフォーカスグループディスカッションに参加しました。患者は全員、子供がおらず、約3年間不妊治療を実施していました。フレームワーク分析では、参加者のグループ間で1つのメタテーマと4つのサブテーマが作成できました。メタテーマは、体外受精周期ごとに計画することがクリニックでは一般的ですが、不安があるものの、複数周期の説明することにより双方にメリットがあるなら計画を提供サイドも周期ごとの説明から複数周期の説明をすることを受け入れられるとの方向性を示しました。4つのサブテーマは、(i)治療計画時の情報提供の不均一性、(ii)医療従事者と患者の協力関係の改善の必要性、(iii)体外受精治療に移行すると成功するという楽観的な見方を改善する必要性、(iv)複数周期の計画に関する不安、利点、嗜好 でした。
結論:
医療従事者側は、通常、体外受精周期ごとに治療計画を立てることが一般的ですが、複数周期の説明が必要であれば患者満足度と体外受精治療に成績向上につながるなら複数周期の治療計画を事前に話すことを受容する方向であることがわかりました。
患者を含めて不妊治療にかかわるメンバーが協力しあって、適切なベンチマークを使用してコストとベネフィットのバランスを取り、一回一回の説明から複数周期の説明に変更していくことにより不妊患者のサポートにつながると考えられます。

≪私見≫

私は、初診に来られた際に、日本や当院の過去のデータからの実際の妊娠の見込みや通院に必要な期間について触れるようにしています。勇気を振り絞って不妊クリニックに来て、いきなり、厳しいことをいわれることに憤慨される患者様も過去にはいらっしゃいましたので言い方には気をつけていますが、やはり医療を提供する上では、この情報提供は必須な部分かと考えています。患者様の中には時間をロスしたくないから現実を突きつけてほしいという方もいらっしゃれば、治療を強制されていると感じがするからできる限り数字を伝えないで欲しいという方もいらっしゃり様々です。このあたりも含めて私たちは医療を提供していく必要があるのですが、人材もふくめた医療資源は限られていますので、どこを当院のベンチマークとするかはいつも頭を悩まされる課題です。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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