子宮内膜症のある女性から得られた発生スピードが遅い(論文紹介)

子宮内膜症があると妊娠率が下がり、一定期間妊娠しなければ若くても体外受精に移行すること、手術をすることを推奨されています。では体外受精に進めば卵子の質は問題ないのでしょうか。内膜症女性から採取した胚を正常女性の胚と発生のスピード・到達率を比較検討した報告をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Natalia C Llarenac, et al.  J Assist Reprod Genet. 2022. DOI: 10.1007/s10815-022-02406-2

単一の大学病院で行われた採卵434件3,471個の胚を評価しました。子宮内膜症の女性からは1,788個の胚が得られ、子宮内膜症のない対照群2,393個の胚と比較しました。すべての胚は、タイムラプスインキュベーターチャンバーで最大6日間培養されました。
morpho kineticsデータは、内膜症女性から得られた胚では、胚の発育が損なわれていることがわかりました。内膜症女性から得られた胚は内膜症がない女性から得られた胚に比べて2-8細胞期に到達するのが遅く(p < 0.001)、さらにcompactionするまでの時間(p = 0.015)、胚盤胞形成などのタイミング(p < 0.001)も遅れていました。
内膜症女性から得られた胚では、細胞周期が遅れるだけでなく、桑実胚、胚盤胞、拡大胚盤胞に到達する割合も低くなりました(p<0.001)。さらに、子宮内膜症グループでは、cc2(p=0.003)、t5(p=0.019)、tSB(p<0.001)、tEB(p=0.007)などが最適なmorpho kinetics範囲に入る胚が少なくなりました。臨床的な妊娠率や出産率には、グループ間で有意な差はありませんでした。

≪私見≫

過去のレトロスペクティブ研究では子宮内膜症の女性では凍結融解胚移植が新鮮胚移植に比べて妊娠成績が改善する可能性が示されています。(A. M. F. Mohamed, et al. Eur. J. Obstet. Gynecol. Reprod. Biol. 2011. Ji. Wu, et al. Front. Endocrinol. 2019.)
これらは、胚の発生スピードが遅かったり、胚盤胞到達率が悪かったりすることが起因していたのかもしれません。また、今回の論文では子宮内膜症の女性に実施された採卵周期では、移植胚が得られない割合が内膜症をもたない女性にくらべて4倍高かったことも報告され、私も同様の印象を持っています。
当院も内膜症女性からの胚に関しては注目していて、過去には当院培養士が「子宮内膜症患者から採卵された卵子の形態と2施設での胚発生の検討」を発表していて、今回の結果と少し矛盾するような結果に見えます。しかし、こちらに関しては胚のグレードや発生スピードには触れていませんので、今回の論文の結果を支持します。
私たちも現在、同様の観点からデータを集積中ですので報告できる時期がきましたらご紹介させていただきます。

文責:川井清考(院長)

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