子宮内膜症手術の国内取り扱い規約での不妊治療における位置づけ

2021年8月に子宮内膜症取扱い規約 第3版が刊行されました。
大きなフローについてはブログ:子宮内膜症の不妊治療の流れ(取扱い規約2021より)で取り上げさせていただきました。

では手術の位置づけはどうなんでしょうか。
各論を見てみたいと思います。

CQ9:卵巣子宮内膜症性嚢胞に対する手術療法は妊孕性向上に有用か?
1.術後の自然妊娠率は焼灼術と比較し嚢胞摘出術でより良好である (推奨グレードA)
2.III/IV期の子宮内膜症に対する手術両方は、妊孕性向上に寄与する可能性がある (推奨グレードB)
3.嚢胞摘出術は体外受精・顕微授精による妊娠率改善に寄与しない (推奨グレードA)
となっています。

この章では、術後の自然妊娠を期待できそうな症例では卵巣子宮内膜症性嚢胞に対する手術療法は有効だとしながらも患者背景に注意を要する必要性を説明しています。

2.のIII/IV期の子宮内膜症とは中等度・重度の子宮内膜症で、2.の部分を示す論文としてランダム化比較試験はなく、また体外受精を念頭にした評価では定かではありません。

とりあげてられている論文は1999年のChapronらの術後経過をみたときのASRM分類別の妊娠率の比較、2006年のVercelliniらの同様の報告、1985年のOliveらのIII/IV期の子宮内膜症の待機群の自然妊娠率の3本しか引用文献がありません。

その他のCQは下記となっています。
CQ10:ダグラス窩深部子宮内膜症に対する手術療法は、妊孕性温存に有用か?
ダグラス窩深部子宮内膜症に対する手術により、妊孕性が向上する可能性がある (推奨グレードC)

CQ11:不妊患者が腹膜病変を有する場合、手術療法は妊孕性向上に有用か?
腹膜病変の外科的切除は術後妊娠率を改善させる (推奨グレードB)

CQ12:子宮内膜症合併不妊において、ARTは有用か?
子宮内膜症合併不妊に対するARTは、他の不妊因子に対するARTと同様に有用であり、その開始時期を逸しない配慮が必要である (推奨グレードB)

先日ご紹介させていただいたブログ:子宮内膜症は「手術が先?体外受精が先?と併せて参考にしていただくのが良いかなと思っていますが、追記して参考になったのは、
自然妊娠を期待するなら時間的ゆとりがあるのであれば、明確な内膜症性嚢胞がなくても、月経困難症で腹膜病変等、軽度内膜症の場合を疑う場合、もう少し腹腔内観察を含めた手術選択を体外受精の代替治療をして提案することは有用であると感じた点です。

もう一点はSomigliana EらがReprod Biomed Online 2019でART施行による内膜症への影響について16件のsystematic reviewではARTにより子宮内膜症に関連する疼痛症状は悪化することなく、子宮内膜症の再発リスクを増加させないことが示されていることです。
私たちが内膜症の体外受精患者様に内膜症裏の卵胞を内膜症越しに穿刺する場合には、感染・疼痛だけではなく内膜症播種のリスクも踏まえて検討する必要があります。
そのようなリスクの高い手技を行わない限り、内膜症合併の体外受精は安全に行えることが本取扱い規約に書かれたことは、医療者・患者双方にとって安心材料につながります。

文責:川井清考(院長)

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亀田IVFクリニック幕張