精索静脈瘤手術後、精液所見改善までは3ヶ月?(論文紹介:予測可能)

ASRMの専門家委員会の推奨では術後の精液検査改善までの時間は通常3〜6ヵ月とされています。患者様がステップアップを含めて長期的なプランを立てる上で、とても重要なポイントとなります。
過去にとりあげたブログでは術後3ヶ月で判断すればよいという内容(精索静脈瘤手術後、精液所見改善までは3ヶ月?(論文紹介:肯定派))、術後6ヶ月までは待つ価値があるが、どの症例が待つ価値があるかの予測因子は同定できいないとする内容(精索静脈瘤手術後、精液所見改善までは3ヶ月?(論文紹介:ほぼ肯定派(予想困難)))でした。今回紹介する論文は、精索静脈瘤手術後の精液所見改善までの期間の予測因子を複数項目検討した内容となっています。

≪論文紹介≫

Yasar Pazir, et al. Andrologia. 2021. DOI: 10.1111/and.13895

2005年から2016年の間に顕微的精索静脈瘤手術を受け、少なくとも12カ月間の術後フォローアップデータがあった18歳以上の患者175人を対象としました。 術前および術後3カ月目、6カ月目、9カ月目、12カ月目に行われた連続精液分析を後向視的に記録しました。術前の総運動精子数に関して、500万未満、500万~900万、900万以上の3つのサブグループに分類しました。
結果:
全体のコホートと総運動精子数が900万個以上のグループでは、術後12カ月目まで精液パラメータの改善が続きました。術前の総運動精子数がそれぞれ500万個未満および500万個以上900万個未満の患者では、術後3ヵ月目および6ヵ月目以降、更なる有意な改善は認められませんでした。
結論:
精索静脈瘤手術の体外受精や自然妊娠を期待するなどの治療戦略の決定は、精液所見の改善時期の予測に基づいて行うことができる可能性があります。

≪私見≫

Al-BakriらもFukudaらも総運動精子数別の改善は顕著ではありませんでしたが、今回のデータでは精液所見が悪い場合(つまりステップアップを迷われているようなカップル)は、術後3ヶ月以上のフォローは不必要としていますので、実質の精索静脈瘤の診断に至ってから手術、フォローまでと考えると半年くらいの時間軸で手術による効果を踏まえた治療方針選択が可能と考えられます。

もう1つ面白い知見です。精索静脈瘤の患者では、術前の FSH 値が造精機能のマーカーとなる可能性があり、値が高いほど機能障害の程度が高く、精索静脈瘤術後に改善する可能性が低いと考えられていて、術前FSH値が低いほど術後の精液所見が改善しやすいことが報告をされています (Chen & Chen, et al. 2011; Kondo, et al. 2009; Madhusoodanan, et al. 2020) 。
今回の術前FSH値が8をカットオフとしたときに精液所見の予知因子となっていたので、私たちも一度そういう目線で評価をしてみたいと思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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