精索静脈瘤手術後、精液所見改善までは3ヶ月?(論文紹介:肯定派)

精索静脈瘤は健常人の10-20%、男性不妊症症例では30-40%に認めるとされます。続発性不妊症では精索静脈瘤が69-81%に認められるという文献もあります (Kibar Y et al, J Urol, 2002.)。精索静脈瘤は片側でも、両側の精巣の障害を来たし、精液所見の悪化を引き起こします。精索静脈瘤による陰嚢温度の上昇、低酸素やアシドーシス、腎や副腎から代謝産物の暴露が原因で造精機能障害がおこると考えられ、精子のreactive oxygen species産生の上昇、DNA断片化が促進されているとされています(Smit M et al, J Urol. 2010.)。
精索静脈瘤手術後には、精子形成に必要な64~72日の期間に対応して、3か月間隔で精液分析を行うのが一般的です (Clermont, 1972; Heller & Clermont, 1963)。
ASRMの専門家委員会の推奨では術後の精液検査改善までの時間は通常3〜6ヵ月で、これは造精サイクル1〜2回に相当します。精索静脈瘤治療後の最初の1年間、または妊娠が成立するまで、約3ヵ月間隔で行うべきであるとしています。
術後の精液所見改善までの時間は、高齢による不妊症や卵巣予備能の低下があるカップルにとってはステップアップを考えるのに、非常に気になる問題点だと思います。
精索静脈瘤摘出術後に精液所見が改善するまでの時間を説明する根拠はまだまだ乏しいのが現実です。術後3ヶ月評価で問題なしという論文をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

(その1)
Ayman Al Bakri, et al. J Urol. 2012.DOI: 10.1016/j.juro.2011.09.041

精索静脈瘤修復術を受けた304名の患者のデータベースを後方視的に検討しました。すべての男性は、少なくとも術前2回、術後3ヵ月と6ヵ月に精液検査を受けていました。
結果:
対象基準を満たした100名の患者では、精索静脈瘤摘出術の3ヶ月後と6ヶ月後に平均精子数が有意に増加しました。手術3ヵ月および6ヵ月後には、術前の総運動精子数と比較して、それぞれ平均2.5倍および1.5倍になりました。6ヵ月以上経過した男性では、それ以上の精液パラメータの改善は認めませんでした。術後3ヵ月、6ヵ月、9ヵ月以上の結果を比較しても、精液量、運動率、精子数、総運動精子の改善傾向はありませんでした。
結論:
精子のパラメータは、精索静脈瘤手術後3ヶ月までに改善し、その後はそれ以上改善しないことが多いです。

(その2)
Teruo Fukuda, et al. Urology. 2015. DOI: 10.1016/j.urology.2015.04.014

顕微鏡的精索静脈瘤手術を受けた不妊男性71名を対象とし、術前1回、術後3ヵ月および12ヵ月後の3回の精液検査を検討しました。
結果:
形態に異常のある精子の割合には有意な変化はありませんでしたが、71名の患者の精子濃度,運動性,全運動精子数は,手術3ヵ月後、12ヵ月後ともに,術前よりも有意に改善しました。しかし術後12ヵ月後の精液所見が3ヵ月後の精液所見と比較してさらなる改善は認められませんでした。術前の全運動精子数が300万以下、300万〜900万、900万以上の3群に分けたところ、3群ともに、術後3ヵ月の全運動精子数は術前に比べて有意に改善しましたが、術後12ヵ月後にさらなる改善は認められませんでした。
結論:
顕微鏡的精索静脈瘤手術は評価が術後3ヵ月で可能であることから高齢女性とのカップルであっても不妊男性の治療オプションとして提供し、効果がない場合には体外受精の治療適用することが検討します。

≪私見≫

術後3ヶ月で精液所見が改善し、それ以上の期間、精液所見改善を待つのは不妊治療に対する時間的ロスが大きいという根拠となるのは、これらの論文です。
私たちの患者様にも、術前に術後3ヶ月の改善を見込んだうえでの治療方針をたてることが大半で、体外受精へのステップアップのメリットとのバランスを患者背景と合わせて評価しています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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