精索静脈瘤手術後、精液所見改善までは3ヶ月?(論文紹介:ほぼ肯定派(予想困難))

精索静脈瘤手術を受けた不妊男性を調査したメタアナリシスでは、精子濃度は平均1,200万/mL、運動性は平均11%増加することが示されています。
Abdulaziz Baazeem, et al. Eur Urol. 2011. DOI: 10.1016/j.eururo.2011.06.018

昨日のブログ、精索静脈瘤手術後、精液所見改善までは3ヶ月?(論文紹介:肯定派)でも記載しましたが、術後3ヶ月で改善しない場合、どこまで精液所見改善を待つメリットがあるのか悩ましいところです。
精索静脈瘤の治療は手術、人工授精、体外受精が治療手段なので、手術によって体外受精の時期を遅らせるべきではないとされていますが、少しでも良い状態で不妊治療に挑みたいというカップルの気持ちを考えると、正しい情報提供をしていけることが好ましいと思っています。術後3ヶ月をすぎても術後6ヶ月まで一定の患者様は精液所見の改善を見込めることを示した論文をご紹介します。

≪論文紹介≫

Graham Luke Machen, et al.Andrologia. 2020.DOI: 10.1111/and.13500

2006年1月1日から2018年6月30日までに、顕微鏡的精索静脈瘤手術を受けた患者に対し、精液検査所見の改善の有無、時期を検討しました。妊娠データは、精液検査所見の改善、時期によって妊孕性(タイミングもしくは人工授精)に影響があるかどうかを調査しました。
結果:
計170名の男性が基準を満たし、140名の妊娠データがありました。
69.4%の患者の総前進運動精子数が有意に改善し、そのうち78.8%が3ヵ月後に改善しました。全体の妊娠率は40.7%でした。総前進運動精子数が改善した男性とそうでない男性を比較すると、妊娠の有無のオッズ比(OR)は5.89(2.28-15.28、0.0003)でありましたが、精液検査の改善が早い場合と遅い場合で妊娠率を比較すると、ORは2.05(0.80-5.28、0.13)でした。妊娠率は改善までの時間には影響されませんでしたが、術後に総前進運動精子数が大きく改善した男性では妊娠率が高くなりました。

その他の結論として、精液改善の有無は術前FSH、テストステロン、精巣サイズとの相関はありませんでした。また精索静脈瘤のグレード別、病変の片側/両側での回復までの時間を下記表でお示しします。

グレード 全体の改善率 3ヶ月後までの改善 6ヶ月後での改善 全体の妊娠率
I-II度(124例) 88/136(64.7%) 67(76.1%) 21(23.9%) 44/112 (39.3%)
III度(30例) 30/34(88.2%) 26(86.7%) 4(13.3%) 13/28(44.8%)
グレード 全体の改善率 3ヶ月後までの改善 6ヶ月後での改善 全体の妊娠率
片側(33例) 25/33(75.8%) 24(96%) 1(4%) 15/29(51.7%)
両側(137例) 93/124(75%) 69(74.2%) 424(25.8%) 42/111(37.8%)

≪私見≫

精索静脈瘤術後、改善する患者様のうち約2割の患者様は、術後6ヶ月までかかり回復することが示された論文です。術後3ヶ月で回復しない場合は6ヶ月までは改善を期待しても良いのかもしれません。ただ、回復の時期を予測する因子は当論文の結果としては見つかっておりません。

精索静脈瘤修復術をして精液所見の改善が3ヶ月後にないと男性だけではなく、ステップアップをしないで待っていた女性の落ち込みようも大きく正しい情報発信をできるきっかけになればと思っています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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