PPOSはデュファストン®️で大丈夫?(論文紹介:その2)

Dydrogesterone(Duphaston)は、その分子構造と薬理効果において内因性プロゲステロンに近い合成プロゲステロンです。アンドロゲンレセプター作用がないことから、胚移植時の黄体補充にもよく用いられ、不妊治療をしている医療従事者、患者様にも馴染み深い薬だと思います。MPAと異なり妊娠中への使用もみとめられている薬剤ですのでPPOS(Progestin-primed ovarian stimulation)にも有効活用できることが望まれます。先行するウトロゲスタン-PPOSと比較検討した論文がでてきましたのでご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Xiuxian Zhu, et al. Fertil Steril. 2017. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2017.06.017
デュファストン-PPOSとウトロゲスタン-PPOSの転機を検討した体外受精患者250名を対象とした前向き研究です。
デュファストン-PPOSはデュファストン(20mg/日)を、ウトロゲスタン-PPOSはウトロゲスタン(100mg/日)を月経3日目よりトリガー日まで使用しhMG150-225単位で卵巣刺激を行いました。トリガーはGnRHアゴニスト 0.1mg皮下注射としました。
評価項目は早発LH サージ率、有効胚数、凍結融解胚移植の臨床成績としました。
結果:
回収卵子数(8.22±5.46 vs. 8.8±5.62)、成熟卵子数(7.2±4.72 vs. 6.98± 4.68)、受精卵数(6.16±4.34 vs. 6.32±4.23)、有効胚数(2.96±2.22 vs. 3.4± 2.54)については両群間に差は認められませんでした。さらに臨床妊娠率(53.04% vs. 51.7%)、初期流産率(8.2% vs. 11.84%)、着床率(38.68% vs. 35.71%)、累積妊娠率(66.67% vs. 69.47%)も同様に差を認めませんでした。
結論:
デュファストン-PPOSとウトロゲスタン-PPOSには大きな差を認めませんでした。

≪私見≫

デュファストンは合成プロゲステロン、ここで使用されているウトロゲスタンは天然型プロゲステロンですが日本の膣剤と違って経口薬です。
デュファストンの方が、効果が弱いのでは?と思っていましたが、デュファストン投与群の月経9-11日目におけるLH値は、ウトロゲスタン投与群に比べて有意に低く(3.11±1.76 vs. 4.31±2.38 IU/L; P<.05)、トリガー日の平均LH値(2.57±1.61 vs. 3.06±2.1 IU/L; P>.05)およびトリガー翌日の平均LH値(52.77±21.54 vs. 57.12± 23.8 IU/L; P>.05)は両群間で同等でした。早発LHサージは両群とも差がありませんでした。
もう一つ、この論文にはポイントがあります。
PPOS黄体ホルモン投与開始時期のTipsです。なかなかPPOSの論文では排卵してしまった!という例がまとまった報告がないのですが、この論文ではディスカッション部分に複数卵胞の直径が10mmを超えた時点でウトロゲスタン100mg投与を開始したところ早発LHサージがでてしまったことを未掲載データながらに記載しています。Yanping Kuangらが卵胞期中期まで複数の成長卵胞を待って血清E2値が上昇しているところからMPA投与をして排卵をしてしまったことと合わせて考えると、迷ったらPPOSの黄体ホルモン投与は早くから開始するのが良いことなんだと思います。

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文責:川井清考(院長)

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