着床する時期のタイミングは妊娠率に影響するの?その2(論文紹介)

8月5日に「着床する時期のタイミングは妊娠率に影響するの?」(https://medical.kameda.com/ivf/blog/post_146.html)という論文を紹介しましたが、来院される患者様から様々な質問をうけました。着床する時期のタイミングが妊娠率を「低下させる」というのが前回紹介した論文の内容でしたが、「低下させないのではないか?」という論文が報告されましたのでご紹介したいと思います。
Joseph B Stanfordら.Hum Reprod. 2020 DOI: 10.1093/humrep/deaa156

≪論文紹介≫

1992年から1996年に収集されたデータで、ヨーロッパ5カ国で実施された前向き研究であるFERTILI研究のデータを使用し着床時期のタイミングが妊娠率に影響を与えるかどうかを検証しました。参加した18-40歳の女性(661人: 2606周期 妊娠は418人)は、子宮頸管粘液の観察、基礎体温の測定、性交渉のタイミング、妊娠について、メモをつけていただきました。
排卵は、月経初日の13日前と決めて「タイミング妊娠可能時期」を排卵日の5日前から3日後まで、「受精卵の着床時期」を、排卵後5日から排卵後9日(月経周期の終了日の3~9日前に相当)としました。タイミング回数は「なし」「1 回」「2 回」「3回以上」に分類しました。夫婦年齢、過去の妊娠歴、性交回数を調整しながら、着床前後の性交が排卵可能性に及ぼす影響を解析しました。
結果ですが、着床前後のタイミングが妊娠に及ぼす影響はありませんでした:着床前後の性交を 3 回以上行った場合と行わなかった場合の調整後 FR:1.00、95%信頼区間:0.76-1.13でした。

≪私見≫

着床時期のタイミングが妊娠率を下げるか下げないかの議論おもしろいですね。この二つの結果が異なる論文は共に前向き研究であり、基礎体温を用いた研究です。排卵日は月経初日の13日目と定義して解析を行っています。(下げるという論文の方が一部は尿中排卵検査キットも使っていますが)
今回の論文(妊娠率を下げない)は2020年に報告されましたが、参加者データは1992-1996年です。前回紹介した論文(妊娠率を下げる)は2014年に報告されていますが、参加者データは2008-2012年です。社会背景を考えると新しい母集団のほうが現代に則しているのかなと考えてしまいます。
私が今患者に提供できる情報は2つかと思っています。参考になさってください。

・「着床時期のタイミングは妊娠率を下げる、下げない」の結論は出ていませんが、妊娠率を上げるわけではなさそうなので無理にタイミングをもつ必要はないでしょう。
・着床時期のタイミングが妊娠に影響するかどうかの論文は、月経周期をもとにした論文ですので、このあと基礎体温管理アプリなどのビッグデータがでるのを待ちましょう。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。