体外受精成績は季節に影響をうける?(論文紹介)

患者様から「妊娠しやすい時期に体外受精にトライしたいのですがいつがいいですか?」という質問をうけることがあります。日本のデータでは夏に出生数が多いですから9ヶ月前の晩秋から初冬が妊娠しやすい時期なのでしょうか。
体外受精は制御された環境下にあるので季節による影響はさほどないだろうという論調です。

  • 季節とART成績には関係がないという報告。
    Fleming et al. 1994;
    Gindes et al. 2003
    Revelli et al. 2005
    Wunder et al. 2005
    Kirshenbaum et al. 2018
    Xiao et al. 2018
  • 季節とART成績に差があるという報告
    Rojansky et al. 2000:胚質
    Wood et al. 2006:着床率
    Vandekerckhove et al. 2016:日照時間と雨の量が出生率と関連

ただ、気温と日照時間は自然妊娠に影響を与えるという報告があります。
日照時間は女性のビタミンD濃度とも関連するので良い方向?精子は熱ダメージに弱いので悪い方向でしょうか?実際、体外受精では影響があるのでしょうか?
ボストンの体外受精センターの6年間6000以上の体外受精成績と、季節、気温、日照時間との関係を調査した論文がありましたのでご紹介いたします。
Leslie V. Farlandら、J Assist Reprod Genet.2020 DOI: 10.1007/s10815-020-01915-2. 

≪論文紹介≫

採卵-新鮮胚移植のART成績が季節と関係があるかどうかを調査しました。2012 年1月から 2017 年 12 月の間に行われた体外受精を季節別、気象記録から得られた地域の気温(最低気温、最高気温、平均気温)と日照時間の長さを三段階に分類し、着床、臨床妊娠、自然流産、出産について多変量ロジスティック回帰を用いて検証しました。
冬に開始された体外受精周期と比較した場合、他の3つの季節の出産の年齢調整オッズに差はありませんでした(春:aOR:0.97、95%CI:0.82-1.13;夏:aOR:1.05、95%CI:0.90-1.23;秋:aOR:0.98、95%CI:0.84-1.15)。気温と着床、臨床妊娠との間には正の線形傾向がありました(着床、p = 0.02;臨床妊娠、p = 0.01)が、出産との関連はありませんでした。
体外受精時の季節は出産とは関連していないことがわかりました。しかし、我々のデータは、6-7月の採卵では臨床妊娠の確率がやや高く、採卵時の体温の上昇は臨床妊娠の確率の上昇と関連していますが、出産とは関連していないことを示されました。

私見:

この論文はボストンでのデータです。ボストンの気候は日本の函館から札幌にあたるくらいでしょうか。ですので、ここで示されている夏の気温・日照時間は千葉県の夏とは異なります。当院に関しては採卵時期による成績に差がありません。

体外受精は季節性が基本なさそうですので、患者様の都合に応じてステップアップの時期を決める形でよいでしょう

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。