妊娠しようと思う時期はいつなの?(論文紹介)

ヒトの出生は季節的変動があることがわかっています。米国では、出生は8月から9月にピークを迎え、4月から5月に落ち込む傾向があります。北欧では、5月ごろに出生数のピークがあり、晩秋から初冬に落ち込む傾向があります。女性は2月-4月に妊娠するまでの期間が長く、8月-10月に妊娠するまでの期間が短くなるという報告もあります。自然妊娠は、文化的・社会的要因(例:年間の仕事のサイクル、休暇の発生時期、国民の休日、結婚の好ましい時期)や環境的・生物学的要因(例:気温、日光、天候、汚染)など、多くの要因の影響を受け、その時々の時流とともに変化する可能性があります。

出生の季節的変動は妊娠にトライしようと思う時期が影響を与えている可能性があります。人事異動が少ないなど雇用の関係、妊娠期間中が真夏になることを避けたいなど妊娠中の体調を考慮した判断、いつ位に子供が欲しいという個人的な選択など、様々な理由があります。日本では、これに加えて子供の早生まれを避けてあげたいなどの理由も入ってくるのでしょうか。 今回、紹介する論文は出生の季節変動ではなく、妊娠トライ開始時期の季節変動を報告した論文です。
Amelia K Wesselinkら.Hum Reprod,2020 DOI:10.1093/humrep/dez265

≪論文紹介≫

ヒトでは出生には強い季節的なパターンがあり、それは地理的な地域や時間帯によって異なることが知られています。しかし、妊娠と季節性のこれまでの研究は、「妊娠した季節」ではなく「出生の季節」を調査しているため、妊娠に試みた時期などが全く議論されていません。
北米・カナダのウェブベースの妊娠前コホート研究(2013年6月~2018年5月:n=5827、Pregnancy Study Online(PRESTO))およびデンマークのウェブベースの妊娠前コホート研究(2007年6月~2018年5月:n=8504、Snart Gravid(SG; 2007-2011)とSnart Foraeldre(SF; 2011-現在))に参加した女性14,331人を対象としました。参加者は避妊解除後6ヶ月以内で不妊治療を行わずに妊娠をトライされています。妊娠の報告は、女性の隔月のフォローアップ質問票で行いました。
妊娠にトライする開始時期は9月にピークを迎え、季節変動を観察したところ、両コホートともに晩秋から初冬の時期にピークがありましたが、デンマーク(1.08;95%CI:1.00、1.16)よりも北米(1.16;95%CI:1.05、1.28)の方が季節性の影響が強いことがわかりました。北米のデータを緯度で層別化すると、米国南部で最も強い季節変動が観察されました(1.45 [95% CI: 1.14, 1.84])。
本研究は、妊娠にトライする開始時期の季節的変動を調べた初めての妊娠前コホート研究です。秋に最も高く、春に最も低く、その影響は北アメリカの南緯度地域で強い傾向がありました。

≪私見≫

日本でも出生は夏に多く冬は少ない傾向があります。当院くらいの規模ですと、「不妊初診数は人事異動時期の3-4月は少ない」くらいしか傾向がないのですが、大規模に調査をすると差がでるのかもしれません。
一昔前は、お祭りなどのイベント後に妊娠数が増えると言われたこともありましたが、女性の社会進出にあたり社会への関わり方や子供の環境に配慮した妊娠トライ開始時期に変わってきているのかもしれません。
年々、出生数が減り続けていますが、新型コロナウィルスの流行はみなさんの妊娠への意識をどう変化させたのでしょうか。新型コロナウィルス感染を軽視するつもりはありませんが、現在のところ妊娠を躊躇する必要がないのではないかと考えています。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。