日本人妊婦におけるFMFモデルを用いた妊娠高血圧症候群予測精度(Hypertens Res. 2021)
【はじめに】
妊娠14-16週前に低用量アスピリンの予防的使用をすることで、妊娠高血圧症候群有病率を50%削減できることが示唆されています。そのため、妊娠高血圧症候群高リスク妊婦を早期にスクリーニングし、特定することが重要です。従来の母体特性と既往歴のみを用いたスクリーニング方法では、全妊婦の10%を高リスクと判定した場合に、実際に妊娠37週未満で分娩する早期妊娠高血圧症候群になる妊婦の40%しか事前に見つけることができませんでした。今回、日本人集団における妊娠11-13週でのFetal Medicine Foundation(FMF)ベイズ定理ベースモデルの子癇前症予測精度を検討した前向きコホート研究をご紹介いたします。
【ポイント】
日本人集団において、FMFベイズ定理ベースモデルを用いた早期PE予測は実行可能であり、高い検出率を示しました。
【引用文献】
Minako Goto, et al. Hypertens Res. 2021 Jun;44(6):685-691. doi: 10.1038/s41440-020-00571-4.
【論文内容】
日本人集団における妊娠11-13週でのFetal Medicine Foundation(FMF)ベイズ定理ベースモデルによる妊娠高血圧症候群(PE)予測の診断精度を調査することを目的とした前向きコホート研究です。妊娠11-13週の単胎妊娠日本人女性2,655名を対象とし、1,036名が研究参加、すべての測定値と周産期転帰が得られた913名の女性を研究に含めました。母体特性と既往歴に関するデータを記録し、平均動脈圧(MAP)、子宮動脈拍動指数、PlGFを測定しました。患者は2017年6月から2019年12月の間に昭和大学病院で出産しました。参加者はFMFベイズ定理ベースモデルに従って高リスク群と低リスク群に分類され、群間でPEの頻度を比較しました。モデルのスクリーニング性能はAUROCを用いて検証されました。
結果:
26名の女性(2.8%)がPEを発症し、そのうち11名(1.2%)が早期PE(妊娠37週未満での分娩)でした。早産型PEの頻度は高リスク群で低リスク群よりも有意に高くなりました(3.8% vs. 0.2%、p<0.05)。この集団モデルは、母体特性、平均動脈圧(MAP)、PlGFの組み合わせにより、検査を受けた妊婦全体の10%が「高リスク」と判定され、早期PEとなった女性のうち91%が事前に「高リスク」として正しく識別されていたこと早期PE予測のAUROC曲線は0.962(0.927-0.981)でした。
【私見】
日本人集団では子宮動脈拍動指数(UtA-PI)の測定が早期PE予測にあまり寄与せず、母体特性、平均動脈圧(MAP)、PlGFの組み合わせで十分な予測精度が得られることが示されました。一方、正期PE予測については従来の報告と同様に早期PEより性能が劣ることが確認されました。なお、この研究ではアスピリンについての記載はされていません。
過去にも妊娠初期PEスクリーニングはブログでも取り上げていて、ハイリスク患者様には検査が実施できる施設にご紹介しています。
妊娠初期PEスクリーニングの早産との関連(Am J Obstet Gynecol. 2024)
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文責:川井清考(院長)
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