不妊女性における慢性子宮内膜炎と子宮内細菌叢の関連(Fertil Steril. 2019)
【はじめに】
慢性子宮内膜炎は細菌病原体による子宮内膜の持続的な炎症状態で、不妊症・不育症との関連が報告されています。厳格な診断基準による慢性子宮内膜炎と子宮内細菌叢を体系的に比較検討した報告をご紹介いたします。
【ポイント】
慢性子宮内膜炎は子宮内腔において18非Lactobacillus分類群の細菌と関連していました。
【引用文献】
Yingyu Liu, et al. Fertil Steril. 2019 Oct;112(4):707-717.e1. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.05.015.
【論文内容】
不妊女性において慢性子宮内膜炎の有無と子宮内細菌叢を比較検証することを目的とした症例対照観察研究です。対象は130名女性で、LHサージ後正確に7日目に子宮内膜組織をとり、CD138免疫染色と16S ribosomal RNA遺伝子の培養非依存性大規模並列シーケンシング(V4領域ターゲット:Illumina MiSeqプラットフォーム)を実施しました。主要評価項目は細菌分類群の相対存在量です。
結果:
慢性子宮内膜炎(CE)はCD138陽性細胞が>5.15 cells/10 mm²とし、12名(9%)が診断されました。Lactobacillusの中央相対存在量は、CE群と非CE群の細菌叢でそれぞれ1.89%と80.7%でした。Lactobacillus crispatusはCE細菌叢で存在量が少なく(fold-change: 2.10–2.30)、Dialister、Bifidobacterium、Prevotella、Gardnerella、Anaerococcusを含む18の非Lactobacillus分類群がCE細菌叢でより多く存在していました(fold-change: 2.10–18.9)。これらのうち、AnaerococcusとGardnerellaはLactobacillusとの相対存在量において負の相関を示しました(SparCC相関係数、範囲:0.142–0.177)。
【私見】
CE群でLactobacillusの存在量が著明に低下し(1.89% vs 80.7%)、特にL. crispatusの減少が顕著でした。Dialister、Bifidobacterium、Prevotella、Gardnerella、Anaerococcusなど18非Lactobacillus分類群がCE群で有意に増加していました。相関ネットワーク解析では、Lactobacillus種は過酸化水素と乳酸を産生することで他の細菌を抑制することが知られており、LactobacillusとAnaerococcus、Finegoldia、Gardnerellaとの間に負の相関が明確に観察されました。
この論文では、Lactobacillusが潜在的有害細菌に対する保護的細菌として重要な役割を果たしていることが視覚的に示されています。
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文責:川井清考(院長)
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