double triggerの効能(J Assist Reprod Genet. 2024)
採卵決定時のトリガーですが、以前はhCGで行われることが一般的でした。卵巣刺激の種類によりますが、昨今はGnRHアゴニストをトリガーに用いることが多くなってきました。GnRHアゴニストは下垂体GnRH受容体を活性化することにより内因性LHおよびFSH放出を誘導することができ、より生体内で起こっているイベントに近い状況を作れると考えられているからです。そして、それぞれの良さがあるなら両方使おうと考えたのが、dual trigger(GnRHアゴニストとhCGの同時投与)です。Double triggerとも呼ばれたりします。
費用を抜きhCG単独とdual triggerとの間に、dual triggerがネガティブであることは基本ないのですが、さまざまな検討がされています。今回、比較的大きな症例数で調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
デュアルトリガーは全症例に行った時にはポジティブな成績改善は認めませんが、ネガティブな効果も認めません。症例によってはポジティブな効果をもたらすことが期待されており、費用面を除いてhCG単独投与と比べてマイナスの点はなさそうです。
≪論文紹介≫
Zining He, et al.J Assist Reprod Genet. 2024 Nov 16. doi: 10.1007/s10815-024-03293-5.
PGT周期を実施するpoor/normal responder患者においてdual triggerが正常核型胚数および累積生児出生率に影響を与えるか評価することを目的としたレトロスペクティブ・コホート研究です。2018年7月から2021年12月まで登録され、単一生殖医療センターで2024年6月まで追跡調査しました。1,040周期のIVF-PGTと784周期の凍結融解胚移植を評価しました。Dual trigger群(GnRHa 0.2mg+rhCG 250μg)またはhCG trigger群(rhCG 250μg)で比較検討し、評価項目は胚発生と胚移植生殖予後としました。
結果:
卵子回収数(10.17±5.22 vs. 10.27±5.14、P= 0.789)、MII卵子数(8.24±4.26 vs. 8.28±4.05、P= 0.888)、胚盤胞数(2.16±1.50 vs. 2.12±1.49、P= 0. 729)、正常核型胚盤胞数(1.06±1.14 vs. 1.09±1.23、P= 0.726)、累積生児出征率(24.9% vs. 24.9%、P= 1.000)は、Dual trigger群とhCG trigger群で同等でした。ロジスティック回帰分析でも、トリガー法は生児出征率と相関しませんでした(オッズ比[OR]=1.040 [0.778-1.392],P= 0.790)。
≪私見≫
今回の報告は、私が以前ブログで取り上げているトリガーで卵の質は変わる?(論文紹介)と同様の結果だと思っています。
ただ、dual triggerは過去にも色々な角度から検証されていて、比較的ネガティブな情報はありません。うまくいかない症例には行う価値はありそうです。
- Normal responderに対しての2RCTでは、回収卵子数および胚発生数は、dual triggerがhCG triggerより多くなりました。
Haas J, et al. Hum Reprod. 2020;35:1648–4.
Ali SS, et al. J Gynecol Obstet Hum Reprod. 2020;49: 101728. - 2021年メタアナリシスでは、dual triggerはhCG triggerより生児出生率を増加させ(中等度)、回収卵子数/有効胚数/臨床的妊娠率を増加(低質)させる可能性が示唆されました。
Hu KL, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2021;19:78. - 2022年POR患者に対するメタアナリシスでは、dual triggerはhCG triggerより生児出生率、臨床的妊娠率を増加させる可能性が示唆されました。
Sloth A, et al. Gynecol Endocrinol. 2022;38:213–21. - 高齢女性を対象としたRCT研究 では、回収卵子数、2PN数、良好胚数質は同程度と報告されています。
Zhou C, et al. Hum Reprod. 2022;37:1795– 805.
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文責:川井清考(院長)
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