不育症の免疫マーカーNKp46の可能性(J Obstet Gynaecol Res. 2017)

「不育症管理に関する提言2021」では不育症検査を①推奨検査、②選択的検査、③研究的検査を3群にわけています。
免疫因子を抽出する検査は現在のところ、③研究的検査に属します。
研究的検査として、抗リン脂質抗体であるネオ・セルフ抗体(抗β2GPI/HLA-DR 抗体)、免疫学的検査である末梢血:NK 活性、NK 細胞率、制御性T 細胞率、子宮内膜:CD56brightNK 細胞率、KIR 陽性率、制御性T 細胞などが挙げられます。
当院では、聖路加SRLと不育症免疫因子第一人者の兵庫医科大学 福井先生と連携し、子宮内膜CD56brightNK 細胞検査を開始しており、治療により生児を獲得しています。その際に、より詳細に子宮内膜の免疫因子を評価するためにNKp46も測定しております。NKp46はNCRであり、NK細胞の活性化レセプターとして働きます。NKp46は、NK細胞の細胞傷害活性とサイトカイン産生に関与しているとされています。過去にもブログでとりあげています。

≪ポイント≫

子宮内膜NK細胞におけるNKp46発現の低下は、NK細胞制御異常の存在を示唆しています。

≪論文紹介≫

Atsushi Fukui, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2017 Nov;43(11):1678-1686. doi: 10.1111/jog.13448.

反復流産女性の子宮内膜NK細胞におけるNCR(NKp46、NKp44、NKp30)の発現とサイトカイン産生を調べること、反復流産既往の有無にかかわらず、妊娠中の末梢血NK細胞におけるNCR発現について調べることを目的とした研究です。子宮内膜NK細胞(CD56dim細胞とCD56bright細胞)におけるNCR(NKp46、NKp44、NKp30)発現をフローサイトメトリーにて解析しました。サイトカイン(TNF-αおよびIFN-γ)産生も分析しましたた。反復流産女性28名、着床不全女性34名、対照群74名の分泌中期子宮内膜からNK細胞を採取しました。反復流産既往妊婦17名と既往のない妊婦91名の末梢血NK細胞におけるNCRの発現を解析しました。
結果:
NKp46+NK細胞割合は、反復流産女性の子宮内膜および反復流産妊婦の初期・中期で有意に低くなりました。TNF-αおよびIFN-γ産生子宮内膜NK細胞割合は、対照群と比較して反復流産女性で有意に低くなりました。

≪私見≫

子宮内膜NKp46発現は、CD56brightとCD56dimの両方のNK細胞におけるサイトカイン産生と関連していること、NKp46強度(NKp46bright NK細胞>NKp46dim NK細胞)はNK細胞によるサイトカイン産生、特にIFN-γ産生と関連していること、NK細胞サブタイプの中では、CD56bright/NKp46bright NK細胞が最も多くのIFN-γを産生することが今回の研究でわかっています。
今回の結果をみても反復着床不全と反復流産はNKp46+NK細胞割合は同じように動いていますが、サイトカイン産生は反復流産患者のみ変化を認めていたので子宮内膜の免疫機序は対峙・接着不全より浸潤後に影響が強いのでしょうか。
このマーカーの面白いところは、血中でも内膜同様相関が考えられる点です。
妊娠初期・中期で反復流産既往女性では、末梢血CD56bright/NKp46+ NK細胞の発現が低かったことは妊娠後の流産などの周産期合併症予知マーカーになりうる可能性を秘めています。

過去にもブログでとりあげています。
NKp46発現は免疫学的反復流産のマーカーになる?(論文紹介)

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文責:川井清考(院長)

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