正常核型胚移植でも女性BMIと生殖成績は関係する(Fertil Steril. 2023)
肥満は周産期合併症の上昇だけではなく、体外受精成績も悪化させることがわかっています。
肥満と不妊(ASRM 専門家委員会2021年)
妊娠を希望する肥満女性の生活習慣の管理(ASRM 専門家委員会2021年)
では、正常核型胚移植でも女性BMIと生殖成績は関係するのは、不妊原因別にわけても変わらないのでしょうか。SARTデータベースを用いてPCOS・男性因子に着目し検証した解析した報告をご紹介します。
≪ポイント≫
正常核型胚と女性BMIの研究では、PCOSの患者では差が著名であり、男性因子のみの患者では女性BMIでの生殖医療成績の低下は見られませんでした。BMI以外のホルモンバランスなどの変化が悪影響を及ぼしている可能性がわかりました。
≪論文紹介≫
Jennifer B Bakkensen, et al. Fertil Steril. 2023 Aug 5:S0015-0282(23)00724-0. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.07.027.
BMIと正常核型凍結融解胚盤胞移植後の生殖医療成績との関連を評価したレトロスペクティブコホート研究です。2016~2019年のSARTデータベースから合計56,564周期の初回単一自己卵子を用いた凍結融解胚移植を、BMI(WHOカテゴリー)で層別化し解析しました。PCOSのみと診断された患者(4,626名)および男性因子のみと診断された患者(10,854名)周期についてサブグループ解析を行いました。評価項目は臨床妊娠、流産(妊娠24週未満)、出生率としました。
結果:
臨床妊娠、流産、出生率ともにBMI正常群が最も良好であり、BMIが高くなるにつれて徐々に悪化しました。これらの傾向は、PCOSのみと診断された患者では同様の傾向は維持されましたが(臨床妊娠: aOR 0.99;95%CI 0.98-0.997、流産: aOR 1.02;95%CI 1.01-1.04、出生: aOR 0.98;95%CI 0.97-0.99)、男性のみと診断された患者では差が認められませんでした(臨床妊娠: aOR 1.00;95%CI 0.99-1.01、流産: aOR 1.01;95%CI 0.99-1.03、出生: aOR 0.99;95%CI、0.98-1.00)
≪私見≫
ほとんどのヒト研究では、肥満と胚異数性の関連を同定できていません。しかし脂質毒性により異数性以外の胚毒性の可能性は考えられています。
内膜側への影響も十二分に考えられます。肥満女性ではレプチンなどの上昇により、子宮内膜胚受容能と脱落膜化にも影響を与えていることがin vitroでも報告されています。BMIだけとらわれるわけではなく、身体のインスリン抵抗性・慢性炎症状態・ホルモンバランスの乱れなどの改善に務めることが生殖医療成績の改善につながる可能性がみえてきます。
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文責:川井清考(院長)
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