悪性腫瘍があるとどのくらい精液所見がわるくなるのでしょうか?

≪研究の紹介≫

Effect of Malignancy on Semen Parameters
精液パラメータに対する悪性腫瘍の影響

Shrem G, ET AL. Life (Basel). 2022 Jun 20;12(6):922.

悪性腫瘍は命に関わる疾患であり、健康上の大きな問題です。また、悪性腫瘍があることによって全身状態も悪化する場合があります。精巣癌は、精子形成に関わる臓器である精巣に腫瘤が形成されるため直接精子形成を障害することは容易に想像できます。しかしながら、精巣癌以外の悪性腫瘍をもっていると精子形成は障害されることが知られています。この研究では悪性腫瘍の種類による精液所見に対する影響を検討したものです。

研究の要旨:
がんと診断され、精巣毒性を有する抗悪性腫瘍薬による治療開始前に精子凍結保存を行った患者313人(PG-Tx群)を対象とした研究です。PG-Tx群は、胚細胞腫瘍、血液腫瘍、胚細胞・血液腫瘍以外の癌、肉腫に分類されました。PG-Tx群の精液所見のパラメータは2つの対照群と比較されました。二つの対照群は、(a)不妊症のための検査を実施し、精液検査所見がWHO 2010年版マニュアルの下限基準値を超えていた症例(ARL群)、および(b)WHO 2021年版マニュアルでの基準値を作成したもととなった生殖機能のある男性(1年以内に自然妊娠した夫婦の男性パートナー、WHO2021群)です。
検討の結果は以下の通りになりました。精液所見はPG-Tx群でARL群より有意に不良でした。その差は、精子濃度が65.6%、精液量が12.1%、総精子数が72.7%、精子運動率が33.0%、高速精子運動率が22.2%、精子前進運動率が24.7%となっていました。PG-Tx群とARL群を比較すると、精子運動率と精子濃度が最も減少していたのは胚細胞腫瘍であり、減少が最も軽度であったのは血液腫瘍でした。同様に、精液検査のパラメータはすべて、PG-Tx群がWHO2021群より有意に低くなっていました(p < 0.0001)。

結論としては以下のようになります。悪性腫瘍が精液検査所見パラメータに及ぼす影響については未だ議論の余地がありますが、この研究で検討したすべての種類の悪性腫瘍は精液検査所見を有意に悪化させることがわかりました。

表1 .悪性腫瘍患者の精液所見を、不妊の検査に受診した症例の精液検査所見との比較した場合の差

精液検査のパラメータ 不妊の検査に受診した症例との差
精液量(mL) 12.1%
精子濃度(百万/mL) 65.6%
総精子数(百万) 72.7%
運動率(%) 33%
高速精子運動率 (%) 22.2%
精子前進運動率(%) 24.7%

                                                
表2. 悪性腫瘍患者の精液所見を、不妊の検査に受診した症例の精液検査所見との比較した場合の差:腫瘍の種類別の検討

精液検査のパラメータ 腫瘍の種類 不妊の検査に受診した症例との差
  癌(血液腫瘍、胚細胞腫瘍以外) 73.3%
総精子数(百万) 血液腫瘍 57.6%
胚細胞腫瘍 82.7%
  肉腫 76.8%
  癌(血液腫瘍、胚細胞腫瘍以外) 11.6%
精液量(mL) 血液腫瘍 12.4%
胚細胞腫瘍 7.4%
  肉腫 27.3%
  癌(血液腫瘍、胚細胞腫瘍以外) 69.4%
精子濃度(百万/mL) 血液腫瘍 48.5%
胚細胞腫瘍 78.8%
  肉腫 57.9%
  癌(血液腫瘍、胚細胞腫瘍以外) 33.3
精子運動率(%) 血液腫瘍 28.7
胚細胞腫瘍 38.7
  肉腫 31.2
  癌(血液腫瘍、胚細胞腫瘍以外) 22.5
高速精子運動率 (%) 血液腫瘍 19.8
胚細胞腫瘍 24.4
  肉腫 23.4
癌(血液腫瘍、胚細胞腫瘍以外) 24.4
精子前進運動率(%) 血液腫瘍 21.7
胚細胞腫瘍 28.1
肉腫 26.2

≪筆者の意見≫

これまでの報告ではがんがあっても精液所見は悪化しないという報告もありますし、この研究結果が確定的というわけでもありません。しかしながら、WHO2021の症例と比較してもこの研究の対象となった悪性腫瘍の患者さんの精液所見は有意に悪化していました(WHOの精液検査所見は、だれでも元のデータを使えるようになっているので便利です)。平均値や中央値はWHOの基準値内とのことでしたが、やはり全体に悪い方に分布していたと述べられています。精巣癌は精子形成をする臓器を直接障害する疾患ですし、ホルモン環境も悪化します。血液腫瘍も発熱などで全身状態を悪化させるため、やはり精液所見に影響を及ぼすリスクになっていると言えます。
今回の検討での結果から、悪性腫瘍はその種類にかかわらず精液所見悪化のリスクとなるということを念頭に癌治療にあたることの重要性を再認識しました。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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