非閉塞性無精子症での精子採取成功をMRI検査で予測!

≪研究論文の紹介≫

無精子症の非侵襲的な評価のための拡散強調MRIとMRスペクトロスコピー: 単一施設での前向き比較研究

Diffusion-weighted magnetic resonance imaging and magnetic resonance spectroscopy for non-invasive characterization of azoospermia: A prospective comparative single-center study

Hesham Said A, 他. Andrology. 2023 Jan 23. doi: 10.1111/andr.13392. PMID: 36690593.

不妊男性の約15%に認められる無精子症では、顕微授精のために外科的な精子採取が必要です。精巣機能低下による無精子症である非閉塞性無精子症では我が国では顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)が広く行われていますが、精子採取率は一般的に3-4割とされています。精巣機能が正常ですが、精巣からの精子の輸送経路の問題で無精子症になっている閉塞性無精子症の場合は、精巣の切開の小さな精巣内精子採取術(conventional TESE)が行われます。外科的な精子採取をする前に、この二つの無精子症を鑑別しておくことはとても重要で、精巣体積や性ホルモン値(FSH)を用いて見分けますが、どちらかはっきりしない場合もあります。また、非閉塞性無精子症での精子採取を予測するための確立した検査は現在Y染色体微小欠失検査(AZF)しかなく、他に予測できる検査が必要な状況です。精巣の組織学的所見は非常に参考になりますが、侵襲的で推奨はされていません。これらの問題についてMRIを用いて検討した研究です。

≪研究の要旨≫

この研究の目的は次のようなものです。閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症を鑑別することと、非閉塞性無精子症の男性における精子採取成功と精巣の組織学的所見(精子形成の状態) の予測について、拡散強調MRI(ADC測定)とMRIスペクトロメトリー(コリン、脂質、クレアチンを測定)の有用性を検討することです。
対象と方法ですが、この前向き比較研究では、閉塞性無精子症の男性60人(A群)と非閉塞性無精子症の男性60人(B群)を対象としました。精子を採取する1週間前に、陰嚢部の拡散強調MRIとMRIスペクトロメトリーを行い、精巣のADC(拡散係数、normalized apparent diffusion coefficient)および代謝産物を評価しました。

結果:
ADC値はA群に比べB群で有意に高く、右精巣と左精巣でそれぞれ0.47±0.11 vs. 0.29±0.05; 0.46±0.14 vs. 0.28±0.02でした。ADC、コリン、脂質のカットオフ値0.353、0.31、0.725とすると、それぞれ曲線下面積=0.963;信頼区間=0.939-0.986、曲線下面積=0.985;信頼区間=0.974-0.997、曲線下面積=0.970;信頼区間=0.940-0.999で、閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症を鑑別できました。
精巣内精子採取率は、閉塞性無精子症で100%、非閉塞性無精子症で43.3%でした。
非閉塞性無精子症群の精子採取成功の予測に関しては、コリンが最も高い曲線下面積(0.923)を示し、そのカットオフ値は0.195でした。ADCは、精子採取に失敗した男性に比べて、精子採取に成功した男性で有意に低値でした。
クレアチンを除くすべてのMRIのパラメータは、非閉塞性無精子症の男性において精巣組織像を独立して予測できました。最も高い予測は正常の精子形成における95%であり、最も低い予測は精子細胞での分化停止における40%でした。回帰分析を用いて最終的な予測因子を検出し、精巣病理学的予測に使用できる因子が決定できました(精巣体積、ADC、脂質が予測因子でした)。

結論:
ADCとMRスペクトロスコピーにより、閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症の鑑別、および非閉塞性無精子症の男性における精子採取と関連する精巣の組織学的所見の予測が可能でした。

<用語の説明>
拡散強調MRI:この検査では生体内での水分子の拡散状態を把握することで、その物質を捉えます。水分子は自由水の状態ではかなり早い速度で拡散しますが、ゼリー状の粘稠な液体の中ではその拡散が抑制され、また、タンパク質のような巨大分子が存在するところではさらにその拡散が抑制されます。生体内では基本的には細胞成分の多い組織では拡散が強く抑制され、細胞間質が豊富な領域では自由に動ける水分が多いことから拡散の抑制は軽度です。これらの拡散の違いを画像化したものが拡散強調画像です(小田純一、新潟がんセンター病医誌、2006)。ADCは、この水分子の動きの程度を定量化したものです。
MRIスペクトロメトリー:核磁気共鳴を用いて、組織中の代謝物質の量を測定する方法です。この研究では、コリン、脂質、クレアチンを調べています。
曲線下面積(AUC):0から1までの値をとり、値が1に近いほど検査での判別能が高いことを示します。判別能がランダムのとき、AUC = 0.5となります。この研究で示された曲線下面積は1に近い数値であり、検査での予測能がとても高いことが示されています。

≪筆者の意見≫

MRI検査は高額な検査ですが、侵襲は少ないものですので、MRIで無精子症の鑑別や、非閉塞性無精子症における精子採取予測の可能性が示唆される興味深い研究です。精子採取の予測のAUCはコリン値で0.923ととても優秀な値で驚異的といえますが、ADCでも0.835、脂質でも0.796と高い値で有用です。非閉塞性無精子症での精巣内精子採取術は顕微鏡ではなく8倍のルーペを使ったものとのことで、我が国で一般的な顕微鏡下精巣内精子採取術と手法が若干ことなるため、解釈に注意が必要かもしれません。
ただちに我が国の診療でおこなうことは難しいとは思われますが、今後の研究の発展、臨床応用を期待いたします。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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