妊娠中プラバスタチン内服していた小児の長期神経発達症追跡調査(Am J Obstet Gynecol. 2023)

妊娠初期にプラバスタチンを投与すると、PE(preeclampsia:妊娠高血圧腎症)発症を抑制する可能性があります。ただし、もともとプラバスタチンはFDAからX指定(動物またはヒトでの研究で胎児異常が証明され、妊婦への使用に伴うリスクが潜在的な利益を明らかに上回る場合のみ使用可能)でした。最近、FDAは妊娠中のプラバスタチン使用に関する警告を削除しました。ただし、まだまだ症例数が少なく、長期予後も不明であることから使用には慎重になる必要があります。
妊娠中プラバスタチン内服していた小児の長期神経発達症追跡調査をご紹介いたします。

≪ポイント≫

妊娠中のプラバスタチン使用は、子供への長期的な悪影響はなさそうです。この情報は、プラバスタチンが子癇前症の予防に実際に有用であるかどうかを確認するための大規模な試験の承認を得るために有用であると考えます。

≪論文紹介≫

Maged M Costantine, et al.  Am J Obstet Gynecol. 2023 Feb 24;S0002-9378(23)00111-4.  doi: 10.1016/j.ajog.2023.02.016.

PE(preeclampsia:妊娠高血圧腎症)発症ハイリスク女性を対象としたプラバスタチンvs.プラセボの産科・胎児薬理研究センターネットワークパイロット試験(ClinicalTrials.gov;NCT01717586)に参加した母親から生まれた子どものフォローアップコホート研究です。子どもの運動、認知、発達の結果を評価するために、盲検化された試験心理士が、有効なツールを用いて子どもの運動、認知、感情、行動評価を行いました。プラバスタチン10mg群と20mg群を両群あわせた内服群とをプラセボ群と比較した。
結果:
40名の子供のうち、30名(15名プラバスタチン妊娠中暴露、15名プラセボ群)がフォローアップ研究に参加され、追跡期間は4.7年(四分位:2.5-6.9年)でした。子どもの性別および補正年齢ごとのBMIや合併症で差を認めませんでした。プラバスタチン群の子供には運動評価に制限がなかったのに対し、プラセボ群では歩行が困難な子供が2名(13.3%)、手先の操作能力が低下している子供が4名(26.7%)いました。プラバスタチン群の子供は、プラセボ群に比べ、認知評価でよく使われるスコア(general mean conceptual ability score)が高く(98.2±16.7 vs. 89.7±11.0;P=.13) 、85点未満(平均から1標準偏差下)の頻度が低くなりました。(15.4 vs. 35.7;P=.38 )。最後に、子供や若者の行動、感情、社会的問題を評価するための親の評価ツールであるChild Behavior Checklist (CBCL)でも差を認めませんでした。

≪私見≫

プラバスタチンのMaged M Costantinらの報告はブログでも取り上げています。
プラバスタチンの妊娠高血圧予防効果(Am J Obstet Gynecol. 2021)
FDAの妊娠中のプラバスタチン使用に関する警告の削除はこちらです。
https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-requests-removal-strongest-warning-against-using-cholesterol-lowering-statins-during-pregnancy
ただし、こちらは妊婦に対して推奨しているわけではありませんので自費診療での過剰・気軽な投薬に対しては注意をすべきだと思います。

下記の記事の2ページから5ページでFDAの要約が日本語でありますのでご確認ください。
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly19/21211014.pdf

スタチンによる催奇形性の警鐘は開発初期の動物実験結果によるものですので、人に投与されている量とは全く異なります。胎児奇形につながらないという報告も増えてきていますが、まだまだ症例数が少ないのが実情です。今後も注視していきたいと薬剤使用の一つです。

文責:川井清考(院長)

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