PCOSは正常胚を戻しても妊娠率が低い(Reprod Biomed Online. 2023)

PCOS女性は、着床から妊娠継続まで不思議と上手くいかないことを経験することがあります。胚の異数性には影響がないということが過去の報告から積み重なっていますが、内膜側の異常なのでしょうか。正常胚を移植した場合の生殖医療成績を過去の報告も交えてご紹介させていただきます。

≪ポイント≫

正常胚を移植した過去の報告もふくめて、PCOS女性では着床から妊娠継続に負の影響を与える子宮内膜機能不全リスクを秘めている可能性があります。

≪論文紹介≫

Xiaofei Ge, et al. Reprod Biomed Online. 2023.  doi: 10.1016/j.rbmo.2023.04.014

2016年10月から2021年12月に、正常核型単一胚盤胞移植を行った1,498名の患者をPCOS群(n=277)と非PCOS群(n=1221)に分け、生殖医療成績で比較したレトロスペクティブコホート研究です。
結果:
正常核型単一胚盤胞移植(vs.非PCOS群)の妊娠反応陽性率(68.95% vs. 64.86%, P = 0.196)、臨床妊娠率(59.93% vs. 57.33%, P = 0.429) は差を認めませんでした。初期流産は、非PCOS群と比較してPCOS群で増加しました(18.67% vs. 12.00%, P = 0.023)。女性年齢とBMIを調整後もPCOSは初期流産率を増加させました。
結論:
臨床的な妊娠率に有意差はなかったが、PCOSの状態は、単回凍結融解した優性胚盤胞移植後の早期自然流産のリスクを高め、内分泌疾患の影響を受けた子宮内膜機能不全の忘れられない役割を示唆していました。具体的なメカニズムや効果的な介入戦略を検討するために、更なる研究が必要です。

≪私見≫

PCOS女性の内膜はプロゲステロン抵抗性があり、脱落膜化異常が起こりやすいと報告、そのほか、サイトカイン、MMP、子宮内膜胚受容能にも影響があるのかではないかとされています。(Savaris et al.,2011、Piltonen et al.,2015、Palomba et al.,2022)
そのほか、高アンドロゲン血症、高インスリン血症、インスリン抵抗性などの全身状態も流産に原因になっている可能性もあります。

その1. レトロスペクティブコホート

PCOS女性(n=74)では、コントロール女性(n=100)では、PCOS女性の方が多く回収卵はとれましたが、生検した胚あたりの異数性率(FISH)には差がありませんでした。女性年齢(38歳以下、38歳以上)では妊娠率、妊娠継続率に差がありませんでしたが、PCOSのなかでも21個以上回収卵子がある女性ではコントロール群と比べて、臨床妊娠率(69.0% vs. 42.9%)および継続妊娠率(65.5% vs. 40.5%)が低下していました。
この論文では平均年齢36歳前後、BMIは触れられていません。

Andrea Weghofer, et al.  Fertil Steril. 2007 Oct;88(4):900-5.  doi: 10.1016/j.fertnstert.2006.12.018. 

その2. マッチドペア研究(1:3)

女性年齢(30歳前後)、BMI(21前後)、胚質をマッチドペアさせたPCOS女性(n=67)と、コントロール女性(n=201)で臨床妊娠率、流産率、生児獲得率を比較検討しました。PCOSは臨床妊娠率が低く、初期流産が高く、生児獲得率が低いことがわかりました。

Lu Luo, et al. Reprod Biomed Online. 2017 Nov;35(5):576-582.  doi: 10.1016/j.rbmo.2017.07.010.

文責:川井清考(院長)

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