社会的卵子凍結の実施有無に対する後悔リスク(J Assist Reprod Genet. 2023)

社会的卵子凍結(planned OC)を検討している女性における実施の有無によっての意思決定を後悔するかどうか比較検討した報告をご紹介します。
このタイプの研究はさまざまな研究者で行われていて、後悔発生率0-16%ですが、今までの報告は後ろ向き研究でした。
0%: Chapman AL, et al. J R Coll Physicians Edinb. 2015;45:201–5.
9%: Daniluk JC, Koert E. Hum Reprod. 2015;30:353–63.
13%: Esfandiari N, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2019;17:16-x.
16%: Martinez KA, et al. Med Decis Mak. 2015;35:446–57.
16%: Greenwood EA,et al. Fertil Steril. 2018;109(6):1097–104.
今回は前向き研究ですので結果が異なるのかが興味深いところです。

≪ポイント≫

卵子凍結を行うかどうかの意思決定について、卵子凍結を行った女性の中で後悔が発生する率は9%であり、行わなかった女性の51%に比べて低かったことがわかった。後悔のリスクを軽減するためには、医療者のカウンセリングが重要であるという結論が得られた。

≪論文紹介≫

Eleni G Jaswa, et al.  J Assist Reprod Genet. 2023 Apr 14.  doi: 10.1007/s10815-023-02789-w. 

社会的卵子凍結のために診察を受けた女性173人を前向きに追跡調査しました。
(1)ベースライン時(初診から1週間未満)、(2)フォローアップ時(卵子凍結を行った参加者は計画後6カ月、治療を進めるための連絡がない場合は相談後6カ月)に調査を実施しました。主要評価項目は、意思決定後悔のスコア DRS score>25を中等度から重度の意思決定後悔としました(0-100でのスコアリング)。後悔の予測因子についても検討しました。
結果:
卵子凍結決定に対する中等度から重度の後悔発生率は9%であったのに対し、卵子凍結を行わないという意思決定をした群では51%でした。卵子凍結を行った女性では、ベースライン時に治療決定するための情報が適切(aOR 0.16, 95% CI 0.03, 0.87)、将来の子供をもつことを重視(aOR 0.80, 95% CI 0.66, 0.99) が、後悔のオッズの低下と関連していました。卵子凍結を行った女性の46%が、もっと早く取り組めばよかったと後悔していました。卵子凍結を行わなかった女性では、主な理由は金銭的および時間的制約であり、凍結を見送った場合の後悔するオッズの増加と相関していました。

≪私見≫

今回の対象者は平均年齢34.7歳(28~42歳)。ほとんどの参加者は独身で、すべての参加者が大卒でした。44%の参加者が、雇用者の福利厚生によって卵子凍結のための費用をある程度負担されていました。参加者の84%が年収100,000ドル以上(日本円で年棒約1,400万ですが、アメリカでの卵子凍結は1周期15,000ドル(約210万))でした。サンフランシスコで行われた調査なので、バイアスはあるだろうとしています。
90%以上の女性は、将来、凍結卵子を用いて児が授からなかった時には後悔はしないが失望するだろうと予想していました。
卵子凍結を見送る理由としての金銭的問題は過去のイギリスの調査(Jones BP, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2020)でも同様の結果となっています。今後、日本では社会的卵子凍結がどのような位置付けになっていくのか、注視していく必要があると感じています。

文責:川井清考(院長)

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