不育症患者の着床前検査の異数性率(F S Rep. 2022)

不育症患者において、本当に母体側が原因かどうかを調べるためには着床前診断で正常胚を戻さないと真実はわからないという考えもありますが、米国生殖医学会ガイドラインでは原因不明反復流産の治療選択として着床前診断を推奨はしていません。期待できる妊娠までの期間が長いこと、費用が高いことが原因です。ただし、このガイドラインは2012年のものであり最新エビデンスが含まれていない可能性があります。また、流産は治療が数ヶ月止まるため、年齢が高い女性にとっては、最終的に赤ちゃんを授かるためには時間をロスしないという意味では必要な治療選択だと感じています。「不育症患者に胚盤胞の異数性率が他の人に比べて高いんですか?」と質問されたとき、どのように答えるのがよいか?こちらに関して、不育症女性と不育症ではない不妊女性を比較して、胚の異数性率を調査した報告を他の文献も含めてご紹介します。

≪ポイント≫

「F S Rep. 2022」では、不育症女性の胚盤胞異数性率は、不育症を伴わない不妊症女性と比べて変わらないという結果が得られました。ただし、過去の報告には異数性率が高いというものもあります。したがって、現時点では、不育症女性においては、不妊症女性に比べて異数性胚盤胞率が同様もしくは軽度上昇する程度であるという説明が適切である可能性があります。

≪論文紹介≫

Molly Siegel Kornfield, et al.  F S Rep. 2022 Oct 20;3(4):342-348.  doi: 10.1016/j.xfre.2022.10.002. 

2016年1月~2018年12月にIVF/PGT-Aを受けた372名のうち、不育症(RPL)女性56名と不育症でない不妊症女性238名の異数性割合を比較したレトロスペクティブ・コホート研究です。主要評価項目は、胚の異数性率とし、副次評価項目的は、受精率および胚盤胞到達率、生検胚盤胞数、異数性胚盤胞のない周期数、異数性胚移植後の流産率、臨床妊娠率、生児獲得率としました。
結果:
異数性率は両群間で同等であり、RPL周期では平均55%(±31%)、非RPL周期では54%(±34%)でした。およそ37歳女性から15個くらい採取する卵巣刺激・採卵を行い4-5個生検したときの異数性割合です。女性年齢、卵巣予備能、不妊診断別に調整しても結果は変わりませんでした。受精率、胚盤胞率、少なくとも正常胚を移植した場合の累積臨床妊娠率、流産率、生児獲得率も差がありませんでした。

≪私見≫

過去の文献ではこの2本が有名な文献です。

  1. Shahine L.K.,et al. Fertil Steril. 2016; 106: 1124-1128
    2回以上の臨床流産を認める不育症女性239名を対象に着床前検査を実施した前向きコホート研究。DOR女性(FSH >10 IU/mL or AMH <1 ng/mL)では、異数性胚盤胞の割合が高く(57% vs. 49%)、移植する正常胚がない周期率が高くなりました(25% vs. 13%)。38歳未満の方が差は顕著でした。
  2. Kort J.D., et al. J Assist Reprod Genet. 2018; 35: 403-408
    3378体外受精周期18,387胚盤胞生検サンプル(PGT―Aのみ)でのコホート研究。母体年齢で調整し、妊娠可能な対照群(産み分けのための体外受精)と比較して、不育症群(OR 1.330、p < 0.001)、過去の異数性妊娠群(OR 1.439、p < 0.001)、過去の体外受精不成功群(OR 1.356、p = 0.0012)では異数性率が高くなりました。原因不明不妊および男性不妊群では対照群と比較して異数性率に差はありませんでした。不育症と体外受精不成功群における異数性の増加は、対照群と比較して減数分裂エラー(OR 1.488と1.508、p < 0.05)と有糸分裂エラー(1.269と1.393、p < 0.05)の両方の増加によってもたらされたが、異数性妊娠既往群では減数分裂エラーリスクのみ増加しました(OR 1.650、p < 0.05)。

不育症女性の定義をどうするか、対照群をどのように設定するかによって結論は変わってきますので、今後出てくるだろうメタアナリシスを楽しみにしています。

文責:川井清考(院長)

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