抗リン脂質抗体は不育症患者でどれくらい陽性になる?(Fertil Steril. 2023)
健康な一般集団における抗リン脂質抗体(aPL)陽性率は1-5%と報告されていますが、不育症患者ではどの程度の有病率なのでしょうか。
≪ポイント≫
アメリカの生殖医療施設において、不育症の女性506名とSLE女性199名を対象として、aPL検査の結果を検討した結果によれば、反復流産患者のうち9.5%が初回陽性となり、13名(2.6%)のみが持続陽性となりました。一方、SLE女性では20.1%が初回陽性となり、9.6%が持続陽性となりました(国内データでは不育症女性のaPL持続陽性率は8.7%)。
≪論文紹介≫
Renee G Cafun, et al. Fertil Steril. 2023 Mar 25;S0015-0282(23)00235-2. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.03.026.
2014年8月2日から2021年12月31日にアメリカの生殖医療施設にて不育症のため、aPL検査を実施した506名を対象としたコホート研究です。不育症は臨床妊娠が2回以上としました。同時にSLE女性199名のaPL検査結果も検討しました。
反復流産患者506名のうち48名(9.5%)がaPLの初回陽性結果となりましたが、12週間あけた再検査で持続して陽性となった女性は13名(2.6%)のみでした。SLE女性199名のうち40名(20.1%)が初回陽性となり、19名(9.6%)が持続陽性でした(2.6% vs. 9.6%, P<.001)。少なくとも1回のみ陽性となった不育症女性の平均抗体価は、SLE患者の抗体価よりも低く(38.6~48.8 IU/mL vs 69.4~78.9 IU/mL)、抗CL IgM抗体、抗β2GPI抗体も同様の結果でした。
1回の流産+1回の生化学妊娠でaPL検査を実施した114名は全て陰性でした。
1件の確定陽性を見つけるために必要な検査数は、反復流産群では39件、SLE群では11件でした。
血栓既往女性では、aPL陽性不育症女性がaPL陰性不育症女性より多くなりました(15.4% vs. 2.8%、P=.06)。13-26週の流産・死産既往女性ではaPL陽性不育症女性が多くなりました(46.2% vs. 19.1%, P=.04)。aPL持続陽性率は、一度は13-26週の流産・死産既往女性を含む不育女性では100名中6名に対し、12週未満の流産のみの不育女性では406名中7名(6%対1.7%、P=.027)でした。不育症女性では、年齢、分娩既往、BMIにおいて、aPL陽性割合に差がありませんでした。
対象患者
年齢:32.3 ± 5.5歳、 BMI:30.5±7.8
初期流産回数:2.7 ± 1.7回、中期流産・死産回数:0.3 ± 0.6回
流産回数:3.1 ± 1.7回 生化学的妊娠数:0.2 ± 0.6回
子宮奇形:2.8% 子宮筋腫:11.1% 子宮腔内癒着:0.6%
糖尿病:5.3% 自己免疫疾患:4.4%、
甲状腺機能低下症:13.8%
血栓症既往:3.2%
核型検査実施数は 203件(40.1%)で夫婦染色体異常 2%
分娩既往 301名 59.5%
|
RPL |
平均 IU/mL |
SLE |
平均 IU/mL |
平均 差 |
95% CI |
|
aCL IgG |
6 |
48.8 |
12 |
73.6 |
-24.8 |
-61.6 |
12.0 |
aCL IgM |
6 |
43.2 |
10 |
69.4 |
-26.2 |
-61.2 |
8.7 |
aβ2GPI IgG |
4 |
46.2 |
13 |
78.9 |
-32.7 |
-71.2 |
5.7 |
aβ2GPI IgM |
9 |
38.6 |
9 |
72.8 |
-34.2 |
-73.0 |
4.7 |
≪私見≫
日本での不育症検査・治療の実態で国内のaPL陽性率は8.7%であったことを考えると、今回の調査では意外と低い結果かなと感じています。ただ、どのような形にしても不育症でないにも関わらずルーチン検査をして行うこと、無駄に不安をあおり、治療介入をすることは問題視しないといけないと感じています。
文責:川井清考(院長)
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