アンタゴニスト周期での体重あたりのrFSH投与用量(レトロスペクティブコホート2018)
生理的なヒトの月経周期では、卵胞期におけるエストラジオールのネガティブフィードバックによる血清FSHレベルが、約30%程度わずかに上昇と上昇期間の制限をコントロールすることで単一卵胞発育を確立しています。卵巣刺激はFSH製剤の投与量、年齢、卵巣予備能、肥満、ベースラインFSH値、以前の卵巣刺激の結果が重要であるとされています。アンタゴニスト周期での体重あたりのrFSH投与用量と卵巣刺激の反応を比較検討した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
体重調整した初期rFSH投与量は、卵巣刺激時の卵胞発育と相関しています。スタートドーズを適切に選択することにより、トリガー時の発育卵胞サイズのばらつきの軽減と回収卵子数増加に寄与することがわかりました。
≪論文紹介≫
Ali Abbara, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2019 Aug 27;10:579. doi: 10.3389/fendo.2019.00579.
2012年1月~2016年1月に単一生殖医療施設で1,034周期を対象にrFSH卵巣刺激をおこなった後の発育卵胞を投与量・卵巣刺激後のホルモン値との相関を示したレトロスペクティブコホート研究です。
結果:
体重で調整したrFSHの開始用量(IU/kg)は、rFSH 投与5日後の血清FSH濃度(R2 = 0.352, p < 0.0001)、rFSH 投与5日後の卵胞サイズの中央値、トリガー後の発育卵胞と胞状卵胞数との割合と相関をしめしました。rFSH 投与5日後の卵胞径中央値は、その後の卵胞径中央値(R2 = 0.58-0.62; p < 0.0001)、トリガーまでの時間(R2 = 0.22, P < 0.0001)を予測しました。卵胞発育が不十分で途中でFSH投与量を増やすと判断した、不十分と考えられるrFSH開始投与用量は、トリガー日の卵胞サイズのばらつきと関連し、採卵時の回収成熟卵子数に悪影響を与えました。
●追記:血清FSHと卵胞の成長
rFSH投与5日後に血清FSH値は、体重で調整したrFSH用量(IU/kg)と相関がありました(R2 = 0.352, P < 0.001)。5日間の刺激で同じ発育卵胞サイズに到達するためにAMHレベルが40pmol/L以上の女性と比較して、AMHレベルが40pmol/L未満の女性の場合は、より高いrFSH開始投与量が必要となりました。卵巣刺激開始後の血清FSH値はGnRHアンタゴニスト投与によって変化しませんでした(p = 0.937:サプリメントに記載あり)
≪私見≫
胞状卵胞数15個以下、女性年齢35歳以上でも2.25IU/kgを超える初期投与量は卵胞発育の用量反応には強く影響を与えないことがわかりました。これは過去の報告でも同様の結果となっています。
Abbara A, et al. Clin. Endocrinol. 2018
Klinkert ER, et al. Hum Reprod. 2005
Van Tilborg TC, et al. Hum Reprod. 2017
Nyboe Andersen A, et al. Fertil Steril. 2017
rFSH製剤(Gonal-F)の終末半減期は1日で、3-4日後に定常レベルに達しますので、こちらも意識しホルモン評価をする必要があります。
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2004/20378scf015_gonal_lbl.pdf
今回の研究では、採卵あたりの生児獲得率は良好胚が一つでもあれば生児獲得につながるので卵巣刺激の成功かどうかの直接の評価項目と考えると難しいとされていて、私自身も同様に感じています。
文責:川井清考(院長)
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