妊孕性温存治療(乳がん患者)をしても長期予後に影響しない(レトロスペクティブコホート2023)

妊孕性温存治療(乳がん患者)を行う場合、術後化学療法治療効果を損なわないよう90 日以内に開始することが勧められますし、術前化学療法の場合は妊孕性温存治療のために治療を遅らせることをできる限り短くするように推奨されています。
妊孕性温存治療を行った人、行わなかった人での長期予後を比較した報告をご紹介します。

≪ポイント≫

卵巣刺激を用いた妊孕性温存治療(乳がん患者)をしても長期予後に影響しなさそうです。乳がん治療前の妊孕性温存治療でも今回の検討では長期予後に影響を与えませんでした。

≪論文紹介≫

Charlotte Sonigo, et al. Fertil Steril. 2023 Mar;119(3):465-473.  doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.11.020. 

卵巣刺激を用いた妊孕性温存治療が、乳がん患者の長期無病生存に影響を与えるかどうかを検討した2つの大学病院で行われたレトロスペクティブコホート研究です。
限局性乳がんの診断後、2013年から2019年に妊孕性温存治療をうけた18~43歳の女性740名を対象としました。328名が少なくとも1回の卵巣刺激を実施した「STIM」群、412名が卵巣刺激を実施せずIVMや卵巣組織凍結での妊孕性温存治療を行った「STIMなし」群としました。主要評価項目は、2021年5月までの無病生存率および全生存率を2群間で対数順位検定、多変量解析にはCox比例ハザード回帰モデルを使用しました。
結果:
「STIM」群269人(82%)、「STIMなし」群330人(80%)のフォローアップデータが入手可能でした。4年後の無病生存率のKaplan-Meier推定値は、「STIM」群で87.9%(82.8%-92.2%)、「STIMなし」群で83.1%(78.4%-87.3%)だった。予後パラメータで調整した結果、乳がん再発率に「STIM」群と「STIMなし」群で差は認められませんでした(HR 0.83[0.64-1.08])。4年後の全生存率のKaplan-Meier推定値は、「STIM」群、「STIMなし」群でそれぞれ97.6%(95.3%-99.2%)、93.6%(90.9%-95.9%)でした。全生存率は「STIM」群が「STIMなし」群より高くなりました。予後パラメータで調整後も、死亡リスクは「STIM」群で有意に低くなりました(HR 0.55[0.35-0.85])。

≪私見≫

卵巣刺激を用いた妊孕性温存治療(乳がん患者)をしても長無病生存率および全生存率などの長期予後に影響しなさそうですね。この報告では、55名の女性が乳がん腫瘍摘出前に卵巣刺激を行っていますが、乳がん術後に卵巣刺激を行った群と比較しても長期無病生存率および全生存率に差は認めませんでした。この結果は、化学療法開始前の卵巣刺激の安全性に関するデータを報告している他の研究(※)と一致しています。手術前でも時間があれば卵巣刺激を検討することも今後は一手段と考えてもよいかもしれませんね。

(※)
J.Turan V.,et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016; 101: 1364-1371
Rodriguez-Wallberg K.A., et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2016; 95: 1015-1026
Letourneau J.M.et al.Cancer. 2020; 126: 487-495
Moravek M.B., et al.Breast Cancer Res Treat. 2021; 186: 429-437

文責:川井清考(院長)

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