若年がんサバイバーの治療後、妊活を始める方の特徴(オンライン調査 2023)
若年がん患者さまと妊孕性温存のカウンセリングを行った時に、話題にあがるのは、どの程度の方が妊孕性温存を行うか、利用率はどうか、その後の妊娠するかたはいるかなどです。アメリカで行われた若年がんサバイバーの治療後、妊活を始める方の特徴についてのオンライン調査をご紹介いたします。
≪ポイント≫
若年がんサバイバーで、がん治療寛解後に妊活を始めている方の特徴は、妊孕性温存治療を行っていること、診断時の年齢が若いこと、診断からの期間が長いこと、パートナーがいること(診断時または調査時)、がん診断前に不妊治療歴があることなどでした。
≪論文紹介≫
Chelsea Anderson, et al. Fertil Steril. 2023 Mar;119(3):475-483. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.12.024.
がん種や治療種類を含めた患者背景、医療従事者との妊孕性についての話し合いや妊孕性温存の利用などが若年がんサバイバーの治療後に妊活を始める割合と関連があるかどうか調査した横断的なオンライン調査です。
2004年から2016年に15~39歳でリンパ腫、乳がん、甲状腺がん、婦人科がんと診断された女性を、アメリカの3地域の医療システムから同定しオンラインアンケートを行いました。内容として、患者背景、がん種、がん診断からがん治療を開始するまでの間に医療機関または生殖医療専門家と行った生殖能力カウンセリング、がん診断後の妊孕性温存治療(胚/卵子)の使用についてです。
主要評価項目は、がん診断後の妊活をおこなったかどうか(妊娠、または妊娠せずに12ヵ月間妊娠を試みた場合のどちらかで定義)としました。
結果:
がん診断時に欲しい子供の人数に達していなかった801名のうち、77%ががん診断から治療開始までに妊孕性に関する話し合いを医療機関で持ち、8%が妊孕性温存治療(胚/卵子)を行っていました。調査時(診断後中央値7年、四分位範囲4~10年)には、32%が妊活を行なっていました。医療機関における妊孕性についての話し合いや不妊治療専門医によるカウンセリングは、妊活の有無と関連はしていませんでした。妊孕性温存治療実施は妊活の有無と関連していました(prevalence ratio 1.74, 95% CI:1.31-2.32)。妊活の有無とは他に、診断時の年齢が若いこと、診断からの期間が長いこと、パートナーがいること(診断時または調査時)、がん診断前に不妊治療歴があることなどが関係していました。
≪私見≫
がんサバイバーでの治療に対する取り組みは、がん種などを含めた患者背景に影響を強く受けます。今回の検討では、がん診断時の女性年齢 中央値 32歳(27-36歳)であり、妊娠前に子供がいない患者が59%、不妊治療経験は15%、がん種(甲状腺 30%、婦人科 15%、乳がん 39%、リンパ腫 16%)でした。今回の調査では、がん診断時に妊娠について行なった話し合いは、妊活実施の有無と無関係だったという結果に終わりましたが、情報提供を適応のある女性全員にという観点からは正しい方向性なのかなと感じています。
文責:川井清考(院長)
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