精索静脈瘤についてAndrologiaに掲載された最近の研究結果③〜精索静脈瘤に対する血管塞栓術〜

Q.精索静脈瘤に対する血管塞栓術の効果はどうでしょうか?
A.良好な結果が得られています。

≪今回ご紹介する論文≫

Clinical efficacy comparison of sclerosing embolization with 3% polidocanol and the microsurgical subinguinal varicocelectomy in primary varicocele patients.
Feng, R., Jiang, J., Cheng, D., & Lu, K.
Andrologia, 54(10), e14530. https://doi.org/10.1111/and.14530

精索静脈瘤患者に対する3%ポリドカノールによる硬化塞栓術と顕微鏡下精索静脈瘤手術の臨床的有効性の比較検討

男性不妊症のもっとも多い原因の一つは、精索静脈瘤です。治療には、精索静脈瘤手術が必要と考えられており、手術が標準的な治療です。この研究は、オプションの一つとして、塞栓術の効果を検証したものです。

≪研究の要旨≫

精索静脈瘤は精子の質障害や陰嚢部の不快感を伴う男性の泌尿器系疾患として一般的なものです。この研究は,精索静脈瘤に対する3%ポリドカノールによる硬化塞栓術と顕微鏡下精索静脈瘤手術の臨床効果を比較検討することを目的として行われました。術後3カ月経過した精索静脈瘤症例59例を対象とし,生化学的パラメータと手術時間,入院時間,術後再発率,合併症の頻度などの臨床転帰を分析しました.このなかに不妊症は2名のみでした。19例は3%ポリドカノールによる硬化塞栓術を受け(SE群),40例は顕微鏡下静脈瘤切除術を受けました(MSV群).SE群では,17例が左側,2例が両側の治療を行い,経過観察期間中に再発や合併症は認められませんでした.MSV群では、3名が両側、36名が左側の治療を受け、再発率は合計5%、合併症率は10%であした。SE群の手術時間および入院期間(それぞれ46.2 ± 9.79 分、2.53 ± 0.90 日)はMSV群(それぞれ100.5 ± 13.76 分、3.6 ± 1.58 日)より有意に短く、p < 0.05と有意差を認めました。3ヶ月後の総精子数は、SE群がMSV群より有意に高い結果でした(p<0.05)。以上から,精索静脈瘤に対する硬化塞栓術は,精子の質の向上,回復時間の短縮,再発率および合併症の低減に有効であることが示されました。

≪筆者の考察≫

本研究では、精索静脈瘤に対する静脈の塞栓術がとても効果があったという結論でした。
精索静脈瘤に対する治療は一般的に精索静脈瘤手術です。我が国では顕微鏡下精索静脈瘤手術、とくに低位結紮術が多く行われています。これは、外鼠径輪より尾側で血管を処理するものです。本研究では、手術の再発率は5%でしたが、これは一般的な顕微鏡下精索静脈瘤手術の再発率と同程度です。本研究では顕微鏡下ですが、高位結紮術が行われていますので我が国の実情にはあっていませんが、特に問題ではないと考えられます。一方、経過観察期間が手術でも塞栓術でも3ヶ月なのと、塞栓術は19例で手術の40例の半数なので、再発率が塞栓術で低いかどうかなんとも言えないと思われます。患者背景も特殊で、半数以上が陰嚢部痛を主訴とした症例であり、不妊症は塞栓術を受けたうちの2名のみ、さらに精液所見も平均値で見ると基準値をもともと満たしていた症例です。つまり、不妊症症例における結果ではないとも言えます。
私も治療法の提示をする際に必ず塞栓術の話もしますが、男性不妊症の精索静脈瘤の患者さんで塞栓術を第一に考えるかたはあまりいらっしゃいません。放射線を浴びることを心配になっているのかもしれませんが、この研究結果からは良い選択肢であることが確認されました。3%ポリドカノールという製剤も新しいもので効果が良かった要因だそうです。今後も引き続き、治療オプションとしての塞栓術の提示は行っていきたいと思います。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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