プロゲステロン膣剤と筋肉注射 BMIによって胚移植成績変わる?(論文紹介)

国内からプロゲステロンの筋肉注射は2023年4月からなくなりますが、海外の論文ではプロゲステロン膣剤との有効性の是非が議論されています。
どのような症例がプロゲステロン膣剤で筋肉注射に比べて生殖医療成績が減弱なのか調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

プロゲステロン膣剤は筋肉注射に比べて流産率が上昇します。正常体重女性ではプロゲステロン膣剤の方が生児獲得率は低く、BMI30を超えてくるとプロゲステロン筋肉注射の方が生児獲得率は低下します。メカニズムはわかっていません。

≪論文紹介≫

Jinlin Xie, et al. Fertil Steril. 2022 Dec 22;S0015-0282(22)02126-4. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.12.034.

2018年1月から2021年6月にホルモン補充周期凍結融解胚盤胞移植を実施した患者を対象としたレトロスペクティブ・コホート研究です。
黄体補充としてプロゲステロン膣剤(ゲル90mg/dayか膣錠600mg/day)またはプロゲステロン筋注60mgで比較検討しました。
分析は一般化推定方程式フレームワークと多変量回帰モデルを用いて実施しました。主要評価項目は生児獲得とし、副次評価項目として生化学的妊娠、臨床的妊娠、流産および流産+死産としました。
結果:
6,905周期のホルモン補充周期凍結融解胚盤胞移植(プロゲステロン膣内投与4,616周期、プロゲステロン筋肉注射2,289周期)を解析しました。女性平均年齢は31歳前後です。生児獲得率はそれぞれプロゲステロン膣内投与46.23%、プロゲステロン筋肉注射群48.62%(OR 0.91, 95%CI 0.82-1.01; aOR 0.89, 95%CI 0.81-0.98)。プロゲステロン膣内投与群ではプロゲステロン筋肉注射群に比べ流産率が高くなりました(22.22% vs. 18.90%;OR 1.23, 95% CI 1.08-1.39;aOR 1.23, 95% CI 1.08-1.40 )。
正常体重の女性では、プロゲステロン膣内投与群の生児獲得率はプロゲステロン筋肉注射群より低くなりました(aOR 0.84, 95% CI 0.75-0.95)。一方、過体重/肥満の女性の生児獲得率は2群間で同程度でした(aOR 1.06, 95% CI 0.86-1.33)。プロゲステロン投与経路と過体重/肥満の結論が交差していました。

≪私見≫

プロゲステロン注射を用いた黄体補充が肥満患者では治療成績が落ちるのは、筋肉注射がうまくいっていないせいなのか、体重あたりで効果が減弱するのかわかっていません。実は卵巣刺激製剤もふくめてどのような患者で効果が減弱するのかは未解明なことが多いので、今後も報告を注視していきたいと思います。

~関連ブログ~
プロゲステロン筋肉注射が膣剤より移植成績に奏功する(論文紹介)

文責:川井清考(院長)

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