精液所見正常症例での精索静脈瘤手術_その③(論文紹介)

Q. 精索静脈瘤手術では妊娠率、生児獲得率、(無精子症での) 精子採取率は改善しますか?
A.精索静脈瘤手術について多数の研究を合わせて検討すると、精液所見が正常の場合も含めて妊娠率、生児獲得率は有意に改善し、無精子症での精子採取率も向上していました。

≪今回ご紹介する論文≫

The benefits of varicocele repair for achieving pregnancy in male infertility: A systematic review and meta-analysis.
Birowo P, Tendi W, Widyahening IS, Atmoko W, Rasyid N. Heliyon. 2020 Nov 5;6(11):e05439. doi: 10.1016/j.heliyon.2020.e05439. PMID: 33204888; PMCID: PMC7648199.

男性不妊症における妊娠達成のための精索静脈瘤修復術の有用性ーシステマティックレビューとメタアナリシス

精索静脈瘤の手術は一般的に泌尿器科の専門医が担当しています。泌尿器科医は手術した症例について精液所見が改善したかどうかは自分でフォローしていればわかりますが、妊娠予後についてまで結果をみることができないことが少なくありません。生殖医療のゴールは、いうまでもなく赤ちゃんを連れて帰ってもらうことです。この研究は多数の研究のデータをまとめて、精液所見異常症例、精液所見正常症例、無精子症それぞれでの手術のメリットを検討したものです。

≪研究の要旨≫

索静脈瘤は、男性不妊症の原因として最も一般的な治療可能な疾患の一つです。しかし、不妊治療を開始する前に精索静脈瘤手術(結紮術あるいは塞栓)術を行うかどうかは、依然として議論されている状況です。この研究では、精索静脈瘤手術(結紮術あるいは塞栓)の有用性と不妊治療の成功率(妊娠予後)に与える影響を検討・分析することを目的として行われました。
研究の対象と方法は次のようになっていました。MEDLINE、Cochrane Library、Wiley Libraryの3つのデータベースを使用し、系統的に文献検索が行われました。主要評価項目は妊娠率(自然妊娠、生殖補助医療による妊娠をとわず)、副次的な評価項目は生児獲得率、(無精子症の場合の)手術による精子採取率です。結果は、精索静脈瘤の治療(結紮術あるいは塞栓)を受けた男性と受けなかった男性の間で比較されました。プールされた解析データは、オッズ比と95%信頼区間で示されています。
次のような結果になりました。合計31の論文が解析に使用されました。
妊娠率は治療群(結紮術あるいは塞栓施行群)で有意に高く(オッズ比=1.82、95%信頼区間:1.37-2.41、P<0.0001)、生児獲得率(オッズ比=2.80、95%信頼区間:1.67-4.72、P=0.0001)も治療群(結紮術あるいは塞栓施行群)で高い結果でした。
さらにサブグループ解析を行ったところ、無精子症、精液所見異常例、精液所見正常例での治療施行例では妊娠率が有意に高く(それぞれP=0.04, P=0.0005, P=0.002)、生児獲得率は精液所見異常例、精液所見正常例の治療例で有意に高かったのですが、無精子症症例では有意ではありませんでした(P=0.001, P<0.0001, 有意差なし)。
一方、精索静脈瘤を治療すると、無精子症患者の精子採取率が高くなっていました(オッズ比=1.69;95%信頼区間:1.16-2.45;P=0.006)。
この研究の結論は次のようになります。精索静脈瘤手術は、精液所見の結果にかかわらず、妊娠率および生児率を増加させ、無精子症の男性の精子採取率も増加させていました。したがって、精索静脈瘤手術は女性側の治療を行う前に実施しておくことが有益であると考えられます。

≪筆者の考察≫

当たり前に行われている精索静脈瘤手術ですが、多数の研究をまとめてみるとよりメリットがはっきりしてきました。以前に一度有用性が否定されたこともありましたが、これだけのエビデンスがでてくるとやはり適応がある症例にはお勧めすべき治療とあらためて感じました。以前にご紹介した精液所見正常の場合でも妊娠率、生児獲得率が有意に良好との結果がメタアナリシスでも出ていますので、このデータを参考にしながら対象となる方に説明していきたいと思います。無精子症となっている精索静脈瘤についての精索静脈瘤手術は、まだ推奨できるだけのエビデンスがないとされており、その旨をよく説明して実施することがガイドライン上も示されています。まったくその通りですが、このような研究が積み重ねられることで将来、有用性がより明確になっていくことを期待します。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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