妊娠糖尿病は体組成でリスクを予測できるか(論文紹介)

妊娠糖尿病のリスク因子として、肥満、糖尿病の家族歴、加齢(高齢妊娠:35歳以上:海外だと25歳以上とする報告もあります)、尿糖陽性、巨大児出産の既往、原因不明の流産・早産・死産既往、羊水過多、妊娠高血圧症候群既往があります。国内での妊娠糖尿病の有病率は約10-15%とされています。肥満因子を体組成計で評価し、妊娠糖尿病との関連性を検討した報告をご紹介いたします。
アジア人は、同じ年齢の白人と比べるとBMIは低いが体脂肪率は高いことが示されていますので重要な要素と考えています。

≪ポイント≫

妊娠初期の体組成は、妊娠糖尿病のリスクと関連しますが、BMIより精度があがる結果にはなりませんでした。

≪論文紹介≫

Yanping Liu, et al. Diabetes Metab Syndr Obes. 2020; 13: 2367–2374.doi: 10.2147/DMSO.S245155

中国の妊娠初期の妊婦1,318名を対象とした研究です。体組成は、妊娠13週目に生体インピーダンス法を用いて測定しました。妊娠前BMI(pre-BMI)、脂肪量割合(FMP: fat mass percentage)、骨格筋量割合(SMMP: skeletal muscle mass percentage)、脂肪量指数(FMI : fat mass index)と妊娠第2期の糖負荷スクリーニングの結果との関連を分析した。脂肪量割合(FMP: fat mass percentage)、骨格筋量割合(SMMP: skeletal muscle mass percentage)は体重で割って算出、脂肪量指数(FMI : fat mass index)は、脂肪量(fat mass(kg))を身長(m)の二乗で割って算出しています。
結果
249人/1,318人が妊娠糖尿病と診断されました。妊娠糖尿病群では非妊娠糖尿病群に比べてFMIとFMPが高く、SMMPは低くなりました。pre-BMI≧24では、pre-BMI<24より妊娠糖尿病発症リスクが高くなりました(a OR 2.604, 95% CI: 1.846-3.673)。FMPが28%以上の女性は、28%未満の女性よりも妊娠糖尿病への発症リスクが高くなりました(aOR 1.572、95%CI: 1.104-2.240)。FMIを妊娠糖尿病の発症予測のAUCは65.8%となり、BMIのAUC=67.2%と同程度でした。

≪私見≫

内臓脂肪量、皮下脂肪厚、体脂肪指数(腹膜前脂肪厚(mm)×皮下脂肪厚(mm)/身長(cm))が妊娠糖尿病発症リスクを判断する良いマーカーとなった先行研究がありますが、BMIや体組成計測定にくらべて手間がかかる検査となります。妊娠16―30週妊婦を対象とした研究ですが、骨格筋量/脂肪量比が低値であればインスリン抵抗性上昇リスクと相関するという国内の報告もあります(Shin Kawanabe, et al. Endocr J. 2019)。

妊娠糖尿病は多い周産期合併症の一つです。生殖医療施設卒業時に少しでもリスク抽出を行い、産科施設にバトンを渡すことが生殖医療施設の重要な点だと思っています。

文責:川井清考(院長)

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